映画公開年別マイベスト 1987年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1990年で、12本の作品が3.0点以上でした。

12位 赤ちゃん泥棒 3.0

ニコラス・ケイジ主演が主演したコーエン兄弟二作目の監督作。
子どもに恵まれない元コンビニ専門強盗犯の夫と元警官の妻が、五つ子が生まれた家庭の赤ちゃんを誘拐したことから騒動が巻き起こる物語です。
冒頭の2人の馴れ初めをテンポ良く見せる語り口からセンスが溢れていて引き込まれました。
憎めない犯罪者のずさんな犯行とそのために狂っていく計画というコーエン節が炸裂するストーリーが楽しく、オムツを盗もうとして大騒ぎに発展するハイテンションな場面は笑えました。
中盤ややダレるのと、結末がマイルドすぎるのは今ひとつでしたが、途中異世界からやって来たようなハンターと追いかけっこを繰り広げるシュールな展開に突入したり、あちこちにメタファーが散りばめられたりと一癖あるあたりは単なるドタバタコメディとは一線を画していました。

11位 ヒドゥン 3.0

カイル・マクラクラン主演の80年代風味あふれるSFアクション。
人の体を乗っ取りながら殺人を繰り返すエイリアンをロス市警の刑事とFBIの捜査官がコンビを組んで追跡する物語です。
プロットに使い古された感は否めないですが、設定は侵略もののSFでキャラクターはバディものというジャンルミックス感が良く、カーチェイスに銃撃戦にグロテスクな寄生シーンと見せ場をしっかり散りばめてくれるので飽きずに楽しめました。
悪役であるエイリアンの動機付けが雑で、余計な講釈を垂れることがないのが良かったです。
クライマックスでの最終兵器がチープなのも微笑ましく感じました。

10位 ハムレット・ゴーズ・ビジネス 3.0

デビュー作でドストエフスキーの名作に挑んだカウリスマキが今度はシェイクスピアのハムレットをモチーフに描いたコメディ。
中世のデンマークから現代のフィンランドに舞台を移し、主人公のハムレットが王位の代わりに経営者の座をめぐる泥沼の争いに身を投じていく物語です。
四大悲劇の一つと称される原作のストーリーを割と素直になぞりながらも、カウリスマキらしいとぼけたユーモアのある演出が施されることで、見事に喜劇として成立していました。
突然のひげ剃りや神妙な雰囲気の役員会議で回し見されるアヒルとお絵かきするハムレット、川ではなくバスタブに浸るオフィーリアなど、らしいギャグはたくさんありましたが、特に良かったのは死体を捨てに行くシーンで、映画でありがちなシチュエーションながら、山中に埋めるでも海に沈めるでもなく、最寄りのゴミ捨て場に隠しもせずにポンと置いてくるのは笑えました。
物語に関係のない犬にライブシーンというカウリスマキ印がしっかり登場しているのも良かったです。

9位 プレデター 3.5

「ターミネーター」では悪役ながらその強烈な存在感で主役を食ってしまったシュワちゃんを逆の立場に追いやることに成功した傑作SFホラーアクション。
前半はサーモグラフィーを効果的に使ってその存在を仄めかしつつ、サバイバルホラー的な展開で恐怖を煽ります。
プレデターを単なるモンスターではなく、誇り高きハンターにしたことがクライマックスでの決闘を盛り上げており、シュワちゃんを凌駕するキャラクターとして成立させていると思いました。
その決闘も罠を仕掛ける頭脳戦なところが良かったです。
相手の実力を認め、マスクを外した途端にブサイクとつぶやかれる名シーンには笑いました。

8位 アンタッチャブル 3.5

禁酒法時代に実在した大物ギャングであるアル・カポネを追い詰めようと奮闘する捜査官たちを描いたクライムアクション。
どこか名作然としたクラシカルな雰囲気が漂うのは時代設定のためだけでなく、有名な「戦艦ポチョムキン」のシーンをオマージュし、一般的にはオリジナル以上に有名なシーンを作り上げてしまったデ・パルマのクラシックへのリスペクトを感じる手堅い演出の賜物だと思います。
ストーリー自体は平凡ではありますが、警察官であろうと陪審員であろうと、あらゆる人々を買収して腐敗させたギャングの恐ろしさと、命の危機にさらされても正義を貫いた主人公たちの気高さは十分に感じられました。

7位 死霊のはらわたⅡ 3.5

70年代のオカルトから80年代のスラッシャーとホラーの流行が移り変わっても、基本的にはシリアスなトーンでいかに観客を恐怖させるかに注力していた中、サム・ライミは「死霊のはらわた」で類い稀なギャグセンスと若さゆえのハイテンションな演出によって恐怖と笑いを組み合わせることに成功しました。
その衝撃的なデビュー作のセルフリメイクとも言える続編です。
前作が恐怖と笑いの絶妙なバランスの上に成り立っていたのに比べると、今作はかなり笑いに偏った作りになっており、バカバカしいスプラッタギャグの連発を楽しめる一方で、ホラー要素を期待すると物足りなく感じます。
ただ終盤は右手にチェーンソーの死霊ハンターを誕生させて、SFアクションへと舵を切るという素晴らしい采配を見せており、物足りなさを違う要素で見事に埋め合わせてくれました。

6位 ネクロマンティック 3.5

エログロ映画の代表格として名高いカルト作品。
見せ物映画かと思いきや、人間誰しもが持つ欲求への問いかけを内包しており見応えがありました。
死体処理の仕事を活かし目玉や臓器をホルマリン漬けコレクションし、死体を交えて彼女と性交に耽る物語と聞けばきっと誰しも顔をしかめますが、それをアブノーマルでセンセーショナルな行為として描くどころか、甘美なピアノの音色で正にロマンティックに見せるところに今作の真意があった気がしました。
ウサギの屠殺と分厚いステーキの食事は、生きるために他の命を殺して食すことと、死んだ身体を愛することのどちらが異常でどちらが正常な行為なのか、不釣り合いな音楽と共に観客を混乱させる意図が感じられ、その境界は曖昧で紙一重であることを表しているように思えました。
さらにリンゴの木の枝から実をもぐ場面の動作をウサギや人間の内臓をトレーに移し取る動作とシンクロさせる演出も周到でした。
死体を愛するよりも愛される死体になることをキリストの復活から閃く驚愕の展開を見せる終盤の流れも素晴らしく、閃いた時の無邪気な喜び、そこに至る際の恍惚と絶頂が、ハイヒールをはいた足によって墓場にスコップが突き刺さるラストカットで見事報われる結末は切れ味抜群のハッピーエンドでした。

5位 フルメタル・ジャケット 3.5

笑ってしまうような言葉の暴力で埋め尽くされた前半と、冷え冷えとした戦場を描き出した後半の2部構成でベトナム戦争を描いています。
ただし視点はこの当時すでに出遅れた感のあるベトナム戦争に対してではなく、暴力、人間性、組織、社会といったおなじみのものにフォーカスされています。
ストーリーが今一つですが、前半の訓練シーンのインパクトは強烈で、これだけでも観る価値があります。

4位 殺人に関する短いフィルム 4.0

テレビドラマシリーズ「デカローグ」の一話を劇場映画として編集した1本。
緑がかった瞼を閉じかけているかのような映像の中で、タイトル通り二つの殺人をありのままに、容赦なく描写しています。
タクシードライバーを殺した青年は、子どもとふざけて屈託のない笑顔を浮かべたり、かと思えば橋の上から下の車道に石を何気なく落としてみたり、行動がまるで子どものようにが描かれます。
殺人のために彼がする用意と、彼を処刑するために用意される器具や儀式的な最後の一服が対比するように映し出され、人を殺すとは何か?殺人と処刑は何が違うのか?そういった感情を呼び起こす傑作です。

3位 ロボコップ 4.0

80年代を代表する近未来SFアクションの傑作です。
ハードな残酷描写は今観てもかなり衝撃的。
そして人間でもロボットでもない存在であるロボコップの苦悩は、彼が生まれながらでも、自ら望んだわけでもないことでより悲劇的なものとして描かれています。
AIが珍しくなくなった現代でこそ身近な難問として迫ってくる気がします。
一方で、近未来のディストピア描写やコマ撮りロボットはいかにも80年代的な時代性を感じさせますが、それは陳腐ではなくもはやレトロと言えます。
ヴァーホーヴェンらしさの象徴とも言える皮肉たっぷりの擬似CMも見どころです。

2位 危険な情事 4.0

絵に描いたような幸せな家庭があり、仕事や友人にも恵まれていながら軽い気持ちで衝動的に情事に及んだ主人公と、依存せずにはいられない孤独な女性。
一本の電話にも不安を覚えるサスペンスフルな前半から、彼女の行動がエスカレートしていく後半まで、安っぽい音楽に頼ってごまかすような演出をせずに乗り切っているおかげで作品には妙なリアリティが生まれ、じわじわとした恐怖が増しています。
彼女の行動はたしかに異常ではありますが、主人公にも非があり、その満ち足りた暮らしと対比されることで際立つ孤独が観客の感情を複雑にし、作品を単なるサイコスリラー以上のものにしています。

1位 友だちのうちはどこ? 4.5

イランの名匠アッバス・キアロスタミの名を世界に知らしめた傑作ドラマ。
ノートを間違って持ち帰ったことで友達が宿題をできず退学になるのを避けるため奔走する少年の物語です。
不安げな少年を写す画面の外から聞こえる動物の鳴き声、洗濯する水音、赤ちゃんの泣き声、風の音といった様々な音がBGM代わりで印象的です。
しつけの名の下に大人は子供を脅し振り回しますが、その何気ない一言が時に世界の終わりのような響きを持つことを知らず、子供の心に広がる不安とその深刻さを大人は理解できないことが丹念描かれ素晴らしかったです。
鉄の扉を売りつけようとする男、鉄の扉は一生壊れないと言うが一生はそんなに長いのかと嘆く老人、そして宿題をする少年へ風が押し開ける扉といった扉にまつわる示唆的な描写が秀逸で、余計なお世話と要らぬ心配がテーマにあるような気がしました。
ラストの花は少年の行為が決して取り越し苦労ではなかったことを示し、その努力に花丸をあげているように感じられ、音楽がかかるタイミングも完璧でした。


いかがでしたでしょうか。
1987年はバイオレンス描写にあふれながらも人間の持つ凶暴性や暴力性を描き出した傑作が多く生まれた年でした。
次回の記事では、1977年を取り上げます。

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