人間の本質を探究した孤高の映像作家 スタンリー・キューブリック 4/4

映画監督

映画監督、スタンリー・キューブリックについて、今回はその作品を時系列順にレビューしていきます。

最高評価は☆×5つ。★は0.5点分です。「長いし難しそう、、」とキューブリック作品を敬遠してきた方のために、「入門最適度」も合わせて紹介していきます。

拳闘試合の日/1951年

試合を控えたボクサーを描いたキューブリックの監督デビュー作。若さを感じさせない落ち着いたカメラワークはさすがですが、単調な編集で、まだ「写真」でなく「映像」を撮ることの意味を理解しているとは思えず、キューブリックの処女作であること以上の魅力はありません。

評価☆★ 入門最適度☆

空飛ぶ牧師/1951年

飛行機を乗り回して困っている人を助けて回る牧師というユニークなテーマですが、あくまでもドキュメントで物語性はありません。葬儀の参列者をクローズアップでとらえたショットやラストの牧師を残して去っていくショットなどは目を引きますが、そこに何かしらのメッセージを持たせられているわけではありません。

評価☆ 入門最適度☆

恐怖と欲望/1952年

時代も場所も不特定なとある戦場を舞台に、ずばり人間の恐怖と欲望を描いています。初の劇映画であり、全体的にぎこちなさは否めず、習作の域を出ていません。しかし、小屋での襲撃シーンのモンタージュは素晴らしく印象的で、キューブリックが初めて映画を作った瞬間と言えるかもしれません。

評価☆☆ 入門最適度☆★

非情の罠/1955年

ありきたりなストーリーで内容は今一つですが、技術的には大きな飛躍を遂げています。ボクシングシーンの迫力はカメラをリングに上げたことで大きく向上しており、夢のシーンのビジュアルやマネキン工場の舞台設定など、ユニークな見どころが数多くあります。とってつけたような甘いハッピーエンドは残念でしかありませんが、望遠で極力あっさりと済ませているところに意地を感じました。

評価☆☆★ 入門最適度☆☆★

現金に体を張れ/1956年

キューブリック初期の代表作となったクライムサスペンス。物語自体は平凡ながら、ストーリーを分解し、それぞれの視点で語りなおすことにより、スリリングで魅力的なものに仕上げています。この手法がタランティーノ、ノーラン、ガイ・リッチーなど90年代にデビューした監督たちの初期作に与えた影響は計り知れません。金のために奔走した人々を嘲笑うように紙幣が風に舞うラストシーンは秀逸です。

評価☆☆☆☆ 入門最適度☆☆☆☆

突撃/1957年

第一次大戦を舞台としていますが、組織において発生する利己主義にフォーカスしていることで、現代の会社にも通じるような普遍的なテーマを持たせることに成功しています。カメラワークが素晴らしく、塹壕の中を後退するショットや、前進する歩兵を俯瞰気味に横移動でとらえたショットは必見です。感動的と言われるラストシーンですが、個人的にはエモーショナルすぎて、それまでの硬派な雰囲気を台無しにしていると感じました。

評価☆☆☆★ 入門最適度☆☆☆★

スパルタカス/1960年

古代ローマ時代の奴隷反乱を描いた歴史スペクタクル。キューブリックがハリウッドと袂を分かつきっかけとなった作品です。当時量産されたいた歴史大作の一つとして観ればそれなりに楽しめますが、監督の個性が出ているとは言えず、本人も職業監督として最低限の仕事をして乗り切ったことを明かしています。内容はともかく、規模の大きな作品をマネジメントする経験と、ハリウッドとの離別という、監督人生におけるターニングポイントとしては重要な作品。

評価☆☆ 入門最適度☆☆☆

ロリータ/1962年

原作の方が有名な、おそらくは唯一のキューブリック作品です。少女への危険な愛情というよりは、年の差カップルにしか見えず、原作の持っている危うさを表現できていないことは、キューブリック自身も認めるこの作品最大の欠点。物語の結末を冒頭に持ってきて、ミステリーとしての体を成したことでそれなりに興味を持続させられていますが、根本的なテーマがぶれてしまった感は否めません。

評価☆☆☆ 入門最適度☆☆★

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか/1963年

ブラックコメディの傑作。ストレンジラブ博士を筆頭としたキャラクターの強烈さ、ストーリーの間抜けさは、カリカチュアライズのお手本のようです。終始おふざけのようなシーンが続く中で挿入される戦闘シーンの妙なリアリティが、作戦室と戦場の温度差を感じさせます。ラストのオチは今でこそ突飛に感じますが、制作年代に気が付いた時にゾッとさせられます。

評価☆☆☆☆ 入門最適度☆☆☆

2001年宇宙の旅/1968年

「人間以前」から「人間以後」まで、映画史上最大級のスケールで描かれる人類史。我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか。その一つの答えがこの2時間半の中にあります。息をのむような美しい映像と音楽の融合は、内包するテーマの壮大さに完璧にマッチ。哲学的SF映画の原点であり頂点です。そのクオリティと影響力は、20世紀を代表する現代アートの名作と言えます。

評価☆☆☆☆☆ 入門最適度☆☆

時計じかけのオレンジ/1971年

暴力性、性的衝動、権力欲、復讐心。人間の醜い姿を時にコミカルに、時に残酷に、時にアーティスティックに、時にスタイリッシュに描き出します。善と悪の概念、道徳観を揺さぶる大人の童話です。「完璧に治ったね」で閉じられるラストは、これ以上ないほど皮肉の効いためでたしめでたしでした。痛烈なメッセージと魅力的なストーリー、成熟したテクニックと鮮烈なビジュアルセンスが高次元で融合した、個人的なキューブリック最高傑作です。

評価☆☆☆☆☆ 入門最適度☆☆☆☆★

バリー・リンドン/1975年

バリー青年の人生の浮き沈みを淡々と描いた物語。3時間の中でそれなりに劇的な出来事は起こりますが、さほど盛り上がる展開は起こりません。しかし彼より波乱万丈な人生を送っている人がどれだけいるか?と考えると、そうはいないはず。「美しい者も醜い者も今は同じ。すべてあの世。」このラストの一節は、ドラマチックな人生も、他の誰かにとっては取るに足らない退屈なものだと言っているようです。

評価☆☆☆☆★ 入門最適度☆★

シャイニング/1980年

超常的な能力をタイトルにしながら、その存在をストーリーからほとんど排除し、あくまで人間の狂気を恐怖の根源として描いたキューブリック唯一のホラー。ホテルの造形や役者の表情、さらにはカーペットの模様に至るまで、印象的なビジュアルは後に数多くのパロディを生みました。商業的成功を条件に制作されたためか、キューブリックらしくないこけおどし的な演出も時折見られますが、それがとっつきやすさにもなっています。

評価☆☆☆☆ 入門最適度☆☆☆☆☆

フルメタル・ジャケット/1987年

笑ってしまうような言葉の暴力で埋め尽くされた前半と、冷え冷えとした戦場を描き出した後半の2部構成でベトナム戦争を描いています。ただし視点はこの当時すでに出遅れた感のあるベトナム戦争に対してではなく、暴力、人間性、組織、社会といったおなじみのものにフォーカスされています。ストーリーが今一つですが、前半の訓練シーンのインパクトは強烈で、これだけでも観る価値があります。

評価☆☆☆★ 入門最適度☆☆☆★

アイズ・ワイド・シャット/1999年

妻に対する妄想にとらわれ、振り回される男を描いたキューブリックの遺作。雰囲気は荘厳ですが、ストーリーはほとんどコメディです。どんなに愛し合っていても、心のうちまでは分からない。だから平穏な夫婦生活を送りたいのなら、余計なことは考えず、ただファックしているのがいい。人間の「愛」という幻想に対する嘲笑は、芥川龍之介の言葉を思い出させます。「恋愛とは、ただ性欲の詩的表現を受けたにすぎない」

評価☆☆☆☆★ 入門最適度☆☆☆

さいごに

いかがでしたか?
全4回に渡って、生涯一貫して描き続けたテーマ、ネガティブではなくシニカルな視点、美しくも無機質な映像美、巧みなカメラワーク、など映画監督スタンリー・キューブリックとその作品の特徴をご紹介しました。
この記事をきっかけに、あなたのお気に入りの1本が見つかればうれしいです。

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