映画公開年別マイベスト 1971年

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今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1971年で、10本の作品が3.0点以上でした。

10位 4匹の蝿 3.0

何者かに付け狙われ、脅迫を受ける青年の恐怖を描いたダリオ・アルジェントの監督三作目。
オープニングクレジットのモンタージュから抜群のセンスが感じられ、すぐに本題に突入するスピード感に引き込まれました。
電話ボックスにいるメイドに近づいて行くカットから平穏な公園が不気味な迷宮に一変するシークエンス、POVで第二の殺人を見せるシーンとストーリーの転換点となる場面の見せ方が素晴らしかったです。
度々挿入される斬首の悪夢は青年の精神を蝕んでいるのが単なる変質者への恐怖ではなく、罪と罰へのパラノイアであることを効果的に表していました。
しかし後半は殺人シーンこそいずれも良かったものの、物語としてはトーンダウンして冗長になった印象です。
真犯人が明らかになると同時にタイトルの意味も分かる仕掛けは楽しかったですが、その動機と結末は今ひとつでした。

9位 わらの犬 3.0

容赦ない暴力描写で知られるペキンパーによるバイオレンススリラー。
平穏な暮らしを求めてイギリスの田舎町に越してきた学者の夫と美しい妻が、粗野な地元民たちによって精神的、肉体的に追い詰められていく様を描いた物語です。
妻が好奇の目に晒される冒頭から不穏な空気が漂っており、夫婦仲がギクシャクするに連れ不安も増していきます。
狩りに連れ出された夫と男たちの狙い通り餌食となる妻のカットバックは、現代の感覚で見ても生々しく恐ろしかったです。
しかし夫が秘める凶暴性を発揮するにはこの上ないトリガーをなぜかスルーして、ハウスインベージョンもののハシリとも言える終盤の展開まで間延びしてしまうのがもったいなかったです。

8位 見えない恐怖 3.0

職人監督リチャード・フライシャーによるサスペンスの佳作。
盲目の女性が帰宅した家では住人が皆殺しにされており、落とした私物を取りに犯人がそこに戻ってくるという物語です。
追い詰められていくか弱い女性という役柄にミア・フォローはこの上なくハマり役でした。
主人公が盲目であるのを補うようによく動くカメラが実に雄弁で、何をいつ映し、映さないかの判断が抜群にサスペンスを盛り上げていきます。
ストーリー的には終盤の展開にもう一工夫ほしかったところですが、フライシャーの演出力を存分に堪能できる良作でした。

7位 恐怖のメロディ 3.0

イーストウッドの監督デビュー作であるサイコスリラー。
撮影当時のイーストウッドは40歳のB級映画専門役者と見なされていたそうで、この時は同年公開の「ダーティハリー」で一躍ハリウッドのトップスターとなり、20年後に監督としてオスカーを勝ち取り、70歳を超えてからも傑作を連発する名匠になろうとは彼自身予想だにしなかっただろうと思います。
本筋にあまり活かされることのない本命の彼女とのラブシーンの甘ったるさや、映像的には貴重なのかもしれませんが、野外音楽フェスの件がやたらと長いことなど、構成や演出に気になる点も多いのですが、浮ついた男が異常な執着心を持った女性から手痛いしっぺ返しをくらう設定には先見性があり、主人公の脇の甘さに違和感を覚えつつも、異常心理の恐ろしさを楽しめるストーリーでした。

6位 フレンチ・コネクション 3.5

アカデミーで作品賞を受賞した刑事アクションドラマの名作。
アメリカン・ニューシネマの一つに数えられることもありますが、他の作品群に比べると主人公は真っ当な正義感に燃える勤勉な男で、ストーリーも結末こそモヤモヤが残るものの、基本的にはストレートなもので、同じ括りにすることには違和感があります。
とはいえ、本作が同年公開の「ダーティハリー」と共に刑事アクションドラマの新しい時代を切り拓いたのは間違いありません。
前半は尾行、張り込み、ガサ入れという地道な捜査の過程を丹念に描きます。優雅で豪勢な食事を見つめながら、道端で寒さに震えながら紙コップのコーヒーと薄いピザを頬張る名シーンが有名です。
中盤からは尾行が追跡となり、一層おもしろくなっていきます。地下鉄での心理戦はスリリングですし、高架下でのカーチェイスは迫力満点でした。
それに比べると終盤の展開は地味な気がしてしまいましたが、どこまでもストイックな作品として楽しめました。

5位 白い肌の異常な夜 3.5

同年に傑作「ダーティハリー」を放つことになるドン・シーゲルとイーストウッドの名コンビによる心理サスペンスの怪作。
狭いコミュニティ内で1人の男を奪い合う地味なストーリーなのですが、そこで繰り広げられるのはカオスとしか言いようのないドロドロとした醜い私利私欲の争いで、強烈なインパクトを放っています。
前半は女性たちに心の声を語らせてしまう陳腐な演出と、フラッシュバックによって主人公の胡散臭さを表す巧みな演出とが交錯する不穏なメロドラマ的な雰囲気です。
それが後半になると登場人物全員悪役的で、罪のないものなどいない様相を呈し、狂気じみた展開を見せるところが素晴らしいです。
ラストも大袈裟なクライマックスを迎えることなく、しっとりとひそやかに、この出来事を単なるハプニングとして処理しているような結末が不快な不気味さを出していて良かったです。

4位 ジャバウォッキー 3.5

子どものとりとめのない妄想をそのまま映像化したような作品。
かわいらしさの中からヒヤッとする恐ろしさが現れる感じ。
秩序がないようであり、あるようでない感じ。
まさにシュールレアリストの真骨頂です。
また猫にやられると分かっていても迷路を目で追ってしまうあたり、完全にシュヴァンクマイエルの術中にはまっている気がします。

3位 激突! 4.0

スピルバーグの隠れた傑作と呼ばれて久しく、もはや立派な初期の代表作となった不条理型のサスペンス。
00年代以降にシチュエーション限定系スリラーか流行したことで言及される機会が増えたような気がします。
アメリカらしいどこまでも続く開放的な一本道を逃げ場のない閉鎖的な空間に感じさせる手腕は天才的で、画面から伝わる暑苦しさもこの状況をより不快なものにしています。
放り出したような素っ気ない結末はこれ以外にないと思える選択で、好感が持てます。

2位 ダーティハリー 4.0

マカロニウエスタンのスターだったイーストウッドのイメージを塗り替えたポリスムービーの傑作。
体制の中にいながらも独自の正義を貫き、そのためにはドロップアウトすら厭わない一匹狼の刑事という主人公のキャラクター像は後の刑事ものに多大な影響を与えました。
しかし、長身で巨大な銃を操り、しかめっ面の合間に時折爽やかな笑顔をのぞかせ、ボコボコにされても決めるべきところではバッチリ決める。そんな魅力的なキャラクターはハリー・キャラハン以外、後にも先にもいないと思います。
シリアルキラーの本筋を走らせる合間に、銀行強盗や身投げ騒動など細かいエピソードをはさみ、主人公のキャラクターを伝える物語の構成もよくできていました。

1位 時計じかけのオレンジ 5.0

暴力性、性的衝動、権力欲、復讐心。
人間の醜い姿を時にコミカルに、時に残酷に、時にアーティスティックに、時にスタイリッシュに描き出します。
善と悪の概念、道徳観を揺さぶる大人の童話です。
「完璧に治ったね」で閉じられるラストは、これ以上ないほど皮肉の効いためでたしめでたしでした。
痛烈なメッセージと魅力的なストーリー、成熟したテクニックと鮮烈なビジュアルセンスが高次元で融合した、個人的なキューブリック最高傑作です。

いかがでしたでしょうか。
1971年はマイベストの「時計じかけのオレンジ」を始め、人間の暴力性や異常性にフォーカスした傑作が多く生まれた年で、イーストウッド主演作品が3つもランクインしました。
次回の記事では、1964年を取り上げます。

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