映画公開年別マイベスト 1988年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1988年で、16本の作品が3.0点以上でした。

16位 となりのトトロ 3.0

スタジオジブリ二作目の名作ファンタジーアニメーション。
田舎へと引っ越してきた一家の姉妹が森の中で不思議な生き物と遭遇する物語です。
ストーリーらしいストーリーはなく、隣に住むおばあさんや少年を中心とした周囲の人々との交流の中での姉妹の感情の機微が丁寧に描かれており、それぞれに感情移入できる作りになっているのが巧みでした。
トトロがあくまで物語を進行させるための一アイテムとして扱われているのも良く、現実と空想の間で絶妙なバランスを保つことに成功しています。
音楽も相変わらず高水準で、キャッチーな二つのテーマ曲も良いのですが、それ以上に雨のバス停のシーンと木が急成長するシーンの音楽が素晴らしかったです。

15位 ビートルジュース 3.0

若きティム・バートンの個性が爆発しているシュールなホラーコメディ。
死者と生者の関わり方や死後の世界の描写がユニークで、程よいグロさも交えながらさりげなく笑えるシーンがたくさんありました。
逆にビートルジュースはキャラが濃すぎて空回りしている印象を受けてしまいました。
リアルとファンタジーが絶妙にミックスされたバートンらしい世界観はすでに確立されており、イマジネーション豊かな映像に身を委ねて楽しめました。

14位 星の王子ニューヨークへ行く 3.0

「大逆転」の監督と主演コンビによるコメディで、エディ・マーフィー絶頂期のヒット作。
アフリカから婚約者を探しにニューヨークにやって来た王子が、身分を隠しながらその恋を実らせるまでの物語です。
床屋でのシーンなど一人何役もこなすギャグはくどく感じてしまいましたが、文化や価値観の違いを使った笑いは楽しめました。
主人公がお喋りなお調子者でなく、真面目なキャラクターとしてツッコミ役に回っていることで、コメディとして程よいバランスが保たれている気がしました。
終盤に出てくる落書きだらけの汚い地下鉄が当時のニューヨークを感じられて良かったです。

13位 DOOR 3.0

高橋伴明が妻の恵子主演で描くサイコスリラー。
強引な訪問販売に苛立ち図らずもセールスマンの男に怪我を負わせて恨みを買ってしまった主婦が、その男の異常な執着心に脅かされる物語です。
バブル期のアッパーミドルの暮らしぶりがどれだけリアルに描かれているのかは分かりませんが、インテリアやファッション、夫婦や親子の間で交わされる会話、個人情報やセキュリティへの意識の低さといった現代との価値観のズレが興味深かったです。
お話には粗が多く、対応能力低めな母と息子にイライラさせられ、ようやく立ち向かい始める後半の展開はコントにしか見えず、珍妙な音楽は緊張感を削いでいます。
しかし随所に素晴らしい恐怖演出が光り、キューブリックオマージュのドア破壊、デ・パルマオマージュの屋根裏アングルなどニヤリとさせられる部分もたくさんあるので観ていて楽しかったです。

12位 ゾンビコップ 3.0

80年代らしいバディものポリスアクションにゾンビ映画の要素を掛け合わせたB級映画の怪作。
冒頭から派手な銃撃戦が披露され、2人のコミカルなかけ合いと共にテンポ良く物語が展開します。
不死身化しても意思や知能がしっかりあったり、腐敗が進むまでのタイムリミットがあったりと、都合良くルールを設定しながらもそれをしっかりエンタメに繋げているのが良かったです。
決してクオリティは高くありませんが、ギャグセンスが高いおかげで古臭さを感じず、飽きずに楽しめました。

11位 オペラ座 血の喝采 3.0

オペラ座を舞台に起きる連続殺人事件をダリオ・アルジェントが描くサスペンスホラー。
主役が事故で降板して大役を掴んだ若い女優の周りで奇怪な殺人が立て続けに起こる物語です。
プロモーションのキービジュアルともなった目を閉じれば針がまぶたを貫く装置の発想が秀逸で、アルジェントが自身の作品の残虐シーンに目を逸らす観客へのジョークから着想を得たというのはさすがでしたし、そこにメタルを乗せる凄まじいセンスには笑ってしまいました。
お話は平凡ですが目に執着した殺人シーンにはしっかり力が入っており、豪快すぎる事件解決方法も楽しかったです。
スイスのアルプスでのラストシーンもお話としては蛇足なのにやけに印象的なビジュアルで良かったです。

10位 チャイルド・プレイ 3.0

絞殺魔の魂が乗り移った人形という異色の殺人鬼を生み出した人気ホラーシリーズの一作目。
シリーズの後々の展開を見ても分かる通り、演出を一歩誤ればコメディになりかねない設定ですが、きっちりホラーとして最後までやりきっていて楽しめました。
前半の誰にも信じてもらえない子ども目線の恐怖が、乾電池によって母親にも共有される有名なシーンはホラー映画としての今作のピークとなっています。
クライマックスのしぶとさは、80年代に流行した一連のスラッシャームービーを経たからこそという気がします。

9位 ダイ・ハード 3.0

見た目は平凡な中年で、愚痴も言えば怪我もする、超人的な肉体ではなくアイディアを武器に戦う等身大のヒーロー像を作り出し、アクション映画界に新風を吹き込んだ人気シリーズの一作目。
限定的な空間設定と孤立無援な状況設定にその身近な主人公を放り込むことで、自分ならどうする?と観客に考えさせて物語に引き込むことに成功しています。
その暑苦しさで忘れていたクリスマスという設定を思い出させるエンディングが印象的です。

8位 ミシシッピー・バーニング 3.5

人種差別が根強く残るアメリカ南部で起きた実際の事件を基にした物語。
黒人だから、というあまりにも単純明快で、あまりにも理不尽な理由で行われる残忍な仕打ちは、個人的な恨みや利害でない分、余計にやるせなく、そして恐ろしく感じられます。
主演の2人のコンビはその見た目とは裏腹に、スマートそうな若手が前のめりな捜査で空回りし、豪胆そうなベテランがにこやかにじっくりと聞き込みをする前半は意外性を楽しめました。
終始真面目なタッチで描かれる社会派の渋い作品ではありますが、終盤ではそれまで出し惜しみしていたかのように、ベテラン得意の強行突破が炸裂する痛快さもあり、娯楽作品として十分に成立しています。
主演の2人を含め、名脇役的なポジションで評価される役者が数多く出演しているのも見どころです。

7位 イマジン 3.5

偉大なミュージシャンであり、前衛的なアーティストであり、平和活動家であり、専業主夫の先駆けでもあったジョン・レノン。
インタビュー音声を使ってナレーターを亡きジョンとし、ハンブルク時代からビートルマニアの狂騒、物議を醸したキリスト発言にマハリシへの傾倒、そしてヨーコとの出会いにメンバー間の不和とジョンのアーティストとしての歴史を振り返りながらソロでの最大のヒット作であり代名詞ともなった名曲「イマジン」を含むアルバムの制作過程を見せてくれる内容です。
さらには解散後の批判との戦いや失われた週末、ショーンの誕生と衝撃的な死までをカバーしてくれるので、ビートルズ時代を含めたジョン・レノン全史を簡単に知るのにも最適なドキュメンタリーです。
ジョンの内面に迫っていくというよりは、外面的な部分の総ざらいなので、ドキュメントとしては薄味ではありますが、シンプルかつ実直な作りで見やすかったです。
率直すぎるがゆえに周りとの衝突を繰り返し、メディアとも有識者とも、挙句にはヨーコとのケンカすらカメラの前で披露するジョンですが、家の周りをうろついていた盲信的なファンに対して俺の歌詞に意味なんかないから自分と重ねるなと突き放しながら、家に上げて食事を振る舞う姿も見せてくれます。
これは単純な優しさというよりは、自身の影響力に対する責任感からくるもので、殺害された時のシチュエーションを知った上で観ると少しゾッとするものでもありました。

6位 真夜中の虹 3.5

カウリスマキのプロレタリアート三部作の二作目とされる鉱山労働者の悲哀を描いた物語。
職を失い、暴漢に襲われ、新しい仕事は見つからず、不幸にも刑務所に入れられるどん底のような状況でも、途中子連れの女性や刑務所で同室になった男など信頼できる人々と出会いながら懸命に生きる物語です。
男二人が出会い友情が芽生える瞬間をセリフもなく、タバコとマッチを投げ渡し投げ返すだけの1カットで表現できてしまうカウリスマキの演出力が冴え渡っていました。
一方で、俯瞰のショットや都会的な背景など、映像的にはこれまでの作品と異なる雰囲気も感じられます。
奪われて失うものが多くても、ラジオであれ新聞であれ持っている物は人と分け合う優しさがありながら、平穏を得るためには犯罪行為にも平気で手を染める。
物語的な善悪や合理性だけで区分けできない人物像は魅力的で、飽きることのない70分でしたが、終盤の展開にはもう一捻りほしかったです。

5位 ザ・バニシング 3.5

バカンスで南仏に車で向かう途中、突如姿を消した妻の行方を何年も追い続ける夫と、そこに熱い眼差しを向ける男の姿を描いたオランダ発の異常犯罪スリラー。
序盤から骨折を装う明らかに怪しい男が映し出されるので、テッド・バンディの手口を知らずとも事件のおおよその真相はすぐに察しがつきます。
その後は早々に被害者から加害者へと視点がスライドし、観客はその心理の動きに寄り添わされることになります。
ここで描かれるのは異常心理ではなく、ごく普通の良き父親が好奇心という誰もが持つ感情によって一線を超えていく姿で、その企みが愚直で試みが滑稽なほど奇妙な愛着が喚起され、正常と異常の境界の不確かさにゾッとさせられます。
二人が出会ってからのドライブは緊張感があるようでない不思議なシーンで、夫の真実を知りたがる執着心は犯人の好奇心と似通っていて、それが最後の決断にも繋がっており、ある意味似た者同士だった二人がくしゃみによって導かれた宿命を感じました。
夢として語られるたまごの殻の中に入るモチーフは、トンネルの先に佇む姿などで象徴的に示されますが、それがあんな形で直接的な結末に帰結するとは思わず驚きました。

4位 愛に関する短いフィルム 3.5

テレビドラマシリーズ「デカローグ」の一話を劇場映画として編集した1本。
窓越しに覗く男と覗かれる女。あまりにも不器用でイノセントな男は愛に幻想を抱いていおり、その愛の対象は不幸にも愛を信じない女へと向かっていました。
愛の形は人それぞれで、それが噛み合っていないことに気が付かなければ、人はすれ違い、傷つけ合い、孤独に陥っていく。
その過程をミニマルな世界の中で描いた佳作。

3位 レインマン 4.0

傲慢な性格の主人公が親の死をきっかけに存在すら知らなかった自閉症の兄と出会い、遺産目当てで病院から強引に連れ出したことで騒動が巻き起こりますが、それを乗り越えるうちに兄との絆に気がついていくロードムービーの名作。
関わる人たちが皆、基本的には善人ばかりなのが気にはなりますが、2人の演技がキャラクターと物語に説得力を持たせています。
奇跡を起こしたり、必要以上にドラマチックな展開で感動を強要したりしない抑制の効いた演出も心地良く、ラストで2人の関係性と主人公の感情は変化しても、兄の変わらないそっけなさが良かったです。
タイトルの意味が二段階で分かるしかけも、2人の関係の深まりとうまくリンクしていて巧みでした。

2位 男のゲーム 4.0

シュヴァンクマイエル史上最もシンプルで、直接的な表現がされている作品の一つではないでしょうか。
サッカーを主題に、代理戦争としての政治的メッセージも匂わせつつ、人体損壊のグロテスクさをコミカルに描いています。
基本は同じことの繰り返しにも関わらず、テンポの良さと男の部屋までなだれ込む怒涛の展開で全く飽きさせません。
ラストのオチも素晴らしく、珍しく素直におもしろいと言える内容は、シュヴァンクマイエルデビューにも最適です。

1位 アリス 5.0

シュヴァンクマイエル初の長編作品は、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」が原作。
シュールレアリズムの源流とも言うべき作品を原作に選ぶあたり、満を持して制作に臨んだのであろうことがうかがえます。
これまでの短編で培ってきた悪夢的な映像のコラージュ術、台詞を含めた音の効果的な使い方、かわいらしさと不気味さを合わせ持つビジュアル造形、それらが全て凝縮された集大成的名作。
原作を読んだ人ならば、ディズニーよりもはるかに正統な映像化であることが分かるはずです。

いかがでしたでしょうか。
1988年はホラーからアクション、コメディ、ドラマ、さらにドキュメンタリーにアートまで、バラエティ豊かな良作が生まれた年でした。
次回の記事では、1971年を取り上げます。

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