映画公開年別マイベスト 1989年

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1989年で、13本の作品が3.0点以上でした。

13位 リトル・マーメイド 3.0

ルネサンスの着火点となったディズニーアニメーションの歴史における記念碑的作品。
アンデルセンの童話を現代的な主人公と強烈な悪役で見事に大人の干渉にも耐え得るエンタメへと昇華しています。
オスカーを受賞した楽曲も素晴らしかったです。
かつてのプリンセスたちが純真で勤勉で家庭的な分、どこか従属的な印象を与えていたのに対し、今作の主人公は独立心と挑戦心が旺盛で、強い意志によって自らの未来を切り開いていく人物像となっており、30年余りの間の時代の変化がしっかりと反映されていました。

12位 メジャーリーグ 3.0

最もポピュラーな野球映画の一つとなったシリーズの一作目。
才能はありながら欠点を抱えて芽が出ない若手と実績がありながらピークを過ぎた下り坂のベテランを寄せ集めた弱小球団インディアンスが起こす奇跡はスポーツものの王道で、予定調和ではありますが、安定したストーリー運びと魅力的なキャラクターたちのおかげで楽しんで観られました。
プライベートな部分のドラマをあれこれ詰め込みたくなりがちですが、それは一人だけに絞って、他のメンバーに関しては基本的に球場内での出来事だけを描いているので、テンポ良く集中が途切れませんでした。
そしてクライマックスであるヤンキースとの決戦では、それぞれに見せ場を用意してしっかりカタルシスを感じさせてくれます。

11位 都市とモードのビデオノート 3.0

日本人デザイナー山本耀司をヴィム・ヴェンダースが見つめるドキュメンタリー。
古いものと新しいもの、作品と商品の間で揺れながらアウトプットする山本にヴェンダースが共通点を見出していくのが面白かったです。
思索するヴェンダースの語りには自己陶酔感がにじむ一方、山本が控えめに語る言葉には信念に裏打ちされた説得力があり、黒で統一されたファッションが確かに現代の感覚でも全く古びていないことに驚かされます。
80年代末の東京の風景が差し込まれるのも楽しく、ヴェンダースがユニークと感じて映した何気ない街中の光景には、日本人だからこそその視点を面白がれる部分があると思いました。

10位 ミクロキッズ 3.0

「ジュマンジ」で知られるジョー・ジョンストンの監督デビュー作。
発明家の父が開発したマシンによって、期せずして身体を指先サイズに縮められてしまった子どもたちの大冒険を描いたファンタジックなコメディで、ファミリーで安心して楽しめる作風は今作で既に確立されています。
冒頭のアニメーションとテーマ音楽も魅力的でした。
80年代のキッズ向け映画でおなじみのゆるい設定と展開をしっかり踏襲しつつ、いつもの庭がジャングルになり、虫が怪獣になる今作ならではの感覚にはワクワクさせられました。
登場する男性がタイプは違えど軒並み変わり者なのもおもしろかったです。
終盤の展開が雑なのは子供心にも気になっていましたが、作品のターゲット的にあれ以上引きのばすよりはサクッと終わらせたのが正解だったのだと思います。

9位 ドライビング Miss デイジー 3.0

裕福な老婦人と黒人の運転手の交流を描いてオスカーを制したハートウォーミングなヒューマンドラマ。
皮肉混じりにウェルメイドと評されたり、白人にとっての理想の黒人像と揶揄されることもある作品ですが、四半世紀に渡る物語を100分以内にまとめた手際の良さと、メインキャスト3人の控えめな好演、そしてもっと観ていたいと感じさせる心地良い雰囲気は評価されて然るべきだと思います。
悪人が登場せず、ハードな人種差別描写もないのは確かに美化されたファンタジーの域を出ないのですが、社会的なメッセージよりも2人の老人が緩やかな時の流れの中で心を通わせていく様に焦点を当てれば、やはり良質なドラマだと感じました。

8位 バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2 3.0

タイムトラベルものにはつきもののストーリーの分かりにくさを解決するよりも、キャラクターの魅力や無数に散りばめられたネタのおもしろさによって、ストーリーの細かい部分を気にさせない力技で乗り切っている印象です。
未来のユニークな描写が満載の前半は楽しめましたが、ディストピアに陥る中盤とPART1の裏側で奮闘する後半は持ち前の明るさが失われ、PART3への布石をうつ為の処理作業に感じてしまいました。

7位 レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ 3.5

演奏させてくれる場所を求めて旅を続けるレニングラード・カウボーイズ。彼らのギャグと演奏だけで成り立っている作品です。
真顔でおかしなことをするギャグが得意なカウリスマキですが、それを長すぎるリーゼントと靴の彼らがすることでより一層おかしさが際立っています。
一方、コメディ感が強くなることでそのギャグのベタさも際立っており、狙ってる感が珍しく強く出てしまっています。

6位 恋人たちの予感 3.5

反発しながらも惹かれ合う男女を描いた王道でありながら唯一無二のラブストーリー。
2人の関係はクラシカルな設定と展開ではあるものの、終始極めて対等なバランスを保っており、それが作品を風化させない要素となっている気がします。
また、そのバランスは作品から恋愛ものとしてのドラマを失わせる代わりに、コメディとしてのおもしろさを強化させており、後半2人の言動がどんどんシンクロしていくコメディシーンへとつながっています。
十数年越しのストーリーの中で、登場人物たちが喋り続ける男女関係のよもやま話もテンポが良くて楽しめました。

5位 ニュー・シネマ・パラダイス 3.5

ノスタルジックな感動を誘う爽やかなヒューマンドラマとしてはもちろん、映画好きにとっての永遠の名作としての地位を獲得したジュゼッペ・トルナトーレの代表作。
映画が人々の最大の娯楽だった時代のシチリアという舞台設定は、郷愁を引き立てるには卑怯なほど抜群でした。
前半の擬似親子的な二人の友情にはズルやイタズラが満ちており、司祭の検閲に象徴される権力に抑圧される立場としての二人の共鳴を効果的に演出しています。
中盤の青年となった主人公の恋と成長の物語も悪くはないのですがどこかありきたりで、前半の神がかり的な素晴らしさに比べると劣ってしまう印象です。
とはいえこの適度な間延びがあるからこそ、ラストで数十年ぶりに故郷を訪れた主人公と想いを重ねることができ、フィルムと共にあふれ出す思い出への感動が増幅しているのも確かです。

4位 セブンス・コンチネント 3.5

演劇やテレビの世界で活動していたミヒャエル・ハネケの衝撃的な劇場長編デビュー作。
中流家庭の一家が静かに破滅へと向かっていく姿を三つの時間軸で順に描いています。
前半は簡素な日常が淡々と描かれ退屈ですが、中盤で一家の決意が語られてからは一気に緊張感が増幅し、ベッドの上に並べられる工具たちのカットでピークに達します。
そして手元と対象物のモンタージュで表現される破壊行為は習慣化された暮らしからの脱却を強烈なインパクトで表現すると同時に、前半から同じ方法で繰り返し描写されていた食事のシーンとの対比によって、結局は生きて死ぬまでに繰り返す行為の一つとして同質化され、物語の結末にやるせない皮肉を感じさせます。
手紙を読み上げさせる部分の説明的な印象は初監督ゆえの甘さという気もしますが、映像的な表現に意識的にチャレンジしようとする後々まで一貫した姿勢は今作から見られました。

3位 闇・光・闇 3.5

人間の身体ができあがるまでをユーモアたっぷりに描いています。
特筆すべきはアソコのシーン。扉を開けてしょんぼりと登場する場面は、シュヴァンクマイエル史上屈指のギャグシーンです。
いろんなパーツを手に入れて、完成したと思いきや、それはとても窮屈な結果を引き起こしました。
目・鼻・口の並びに、手足は2本ずつ。そんな作りが当たり前と思うこと自体が、既成概念にとらわれているのかもしれません。

2位 ドゥ・ザ・ライト・シング 4.0

うだるように暑いブルックリンでの1日を群像劇風に描いたブラックムービーの傑作。
観客に対して訴えかけるパワーがすさまじく、人種差別への問題提起を飛び越え、もっと根源的な人間の衝突の愚かさと虚しさを感じました。
なんでもない日常のはずなのに、黒人もイタリア系も韓国系も、登場人物がみな喚き、叫び、怒り狂っています。
そして渦巻く怒りは憎しみへと変わり、キング牧師の言葉通り、それを糧に暴力へと発展していきます。
しかもその導火線には大した理由もなく火がつくところが恐ろしく、またやるせなかったです。
翌朝のエピソードはやや蛇足気味でしたが、ラストで対比される2人の偉人の言葉は、正しいこととは何なのか、問いかけるような余韻を残していました。

1位 コックと泥棒、その妻と愛人 4.0

誇張された世界観がクセになるレストランを舞台にした演劇風の復讐劇。
厨房を横移動し対象物と距離を取るカメラワーク、赤青緑の原色を多用するライティング、それら独特の画面作りによって座席に置かれて演劇を観ているような感覚に陥ります。
そこに映し出されるのは欲望と情念の世界で、常軌を逸した感情は並のホラーよりもはるかに恐ろしかったです。
粗野や傲慢というレベルではなく、誰もが嫌悪感を抱くような夫のキャラクターが強烈で、観客は妻の行為の正当性を否応なしにすり込まれます。
そしてレストランを舞台にしていること、一流のシェフが片棒を担いでくれていること、夫が食に異様な執着心を持っていること、それらが伏線となって壮絶な復讐へと物語を導き、グロテスクなカタルシスを迎える流れが素晴らしかったです。


いかがでしたでしょうか。
1989年は大ヒットしたエンタメ作品からディズニーアニメ、シリアスな作家性の強い作品までバラエティ豊かな年でした。
次回の記事では、1994年を取り上げます。

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