映画公開年別マイベスト 1940年代

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1940年代で、20本の作品が3.0点以上でした。

20位 ドナルドのめざまし時計 3.0

ドナルドダック主演のディズニー短編アニメーション。
眠りにつこうとするドナルドを目覚まし時計やベッドがあの手この手で妨害する物語です。
やっていることは理不尽に酷い目に遭ういつものドナルドなのですが、明らかに神経症性不眠が表現されていているブラックユーモアが秀逸でした。
一瞬窓の外が映るのですが、よく出てくる郊外の一軒家ではなく立ち並ぶマンションの一室であるのが示唆的で、都会暮らしのストレスを投影していると深読みしたくなる良作でした。

19位 汚名 3.0

ヒッチコックが戦後最初に制作・公開した作品となったスパイサスペンスの秀作。
諜報部員の男に図らずもスカウトされて女スパイとして奮闘する主人公の決死の任務と恋の行方を描いた物語です。
男は女に愛情を抱いてはいるが任務をより重要視し、愛を求める女はそれに不満と失望を感じながらも任務に身を投じて行くというリュック・ベッソンが好むパターンの雛形をヒッチコックは作り上げています。
序盤の3秒ルールの壁を破ったことで有名なキスシーンは、検閲逃れが発端だったのかもしれませんが、途切れながらも続くことで二人の燃え上がる情熱を表すキスシーンとして効果的で、それが後半の任務のための哀しいキスシーンとの対比となっているのも周到でした。
俯瞰や引きの画から注目すべき箇所にじっとり寄って行くカメラワークや、文字通りストーリー上のキーアイテムとなる鍵をめぐるシークエンスでの冴え渡るサスペンス演出も見事です。
連絡手段もろくに準備せず素人を送り込むFBIや、不用意な接触を繰り返して案の定怪しまれるケイリー・グラントといった無能な男たちが冷や汗をかくこともないのはご都合主義な印象でもったいなかったです。

18位 ファンタジア 3.0

長編アニメーションの制作に乗り出したばかりのディズニーが放った不朽の名作。
冒頭で説明される通り音楽を聴いた時に心に浮かべる8編のイメージを映像化したものですが、その映像化の仕方がとてつもなく、アニメーションか実写かといったレベルを超えて、映像とは光と影であり、色彩であり、モンタージュであることを示す美しいイメージの洪水は芸術作品として紛れもなく一級品でした。
とはいえ、開始から30分頃に始まるミッキーが魔法使いの弟子を演じる有名なパートの出来がやはり素晴らしく、抽象的な作品において分かりやすいキャラクターの存在がいかにありがたいか思い知らせてくれます。
中盤はさすがにダレますが、終盤のはげ山の一夜はホラーテイストで、絵のタッチも他のパートとは一味違った恐ろしく美しい作風で素晴らしく、そのままアヴェマリアになだれ込む流れも良かったです。

17位 独裁者 3.0

時代背景を意識せざるを得ない設定で、笑いの要素が控えめな分、チャップリン作品中でもメッセージ性の強さは随一です。
二つの軸が微妙に交差しながら進み、最後には正に入れ替わってしまうストーリー展開は巧みです。ただ、中盤以降独裁者のマウント合戦シーンからはややテンポが悪くなり、移住した家族の暮らしや収容所での生活がダイジェスト的な扱いなのはバランスに欠ける印象を受けました。
有名なラストの演説シーンは迫力十分で、その内容への賛同はともかくとして、これが戦時中に公開されたという事実とも相まって胸に迫るものがあります。

16位 海外特派員 3.0

傘の群衆、逆回りの風車、海面に不時着する飛行機とギミックや場面設定が優れており、見せ場に事欠かない作品。ヒッチコック得意の巻き込まれ型ではなく、主人公が自らトラブルに突入していく展開や、空襲の中でもくじけないラストシーンは戦時下に制作された影響を強く感じさせます。

15位 断崖 3.0

サスペンスの神様ことヒッチコックが「レベッカ」でアカデミー作品賞を勝ち取った後に再びジョーン・フォンテインを迎えて手がけた心理スリラー。
序盤はプレイボーイのヒモ男と良家の奥手なお嬢様のロマンスを描き、男の図々しさに女の両親への反発と抑圧された感情が刺激され、恋が燃え上がる様をテンポ良く見せていきます。
しかし中盤で疑念が生まれてからはジャンルが急転し、以降は妻の目線で夫の全てが疑わしくなっていく様をひたすら描いていきます。
エピソードが起こる度にどんどんと疑心暗鬼に陥っていく心理描写が素晴らしく、冒頭の電車賃をたかる場面から周到な伏線が張られていたことが分かっていきます。
今作でヒッチコックはストーリーをほとんど放棄し、まるで疑念という感情を使ってどれだけサスペンス的シチュエーションを描けるかを試しているかのようで、作品としての単純なおもしろさでは他の傑作群に比べて一段落ちますが、その演出テクニックを存分に堪能するにはうってつけです。
特にクライマックスのミルクに豆電球を入れた伝説的演出は必見です。

14位 失われた週末 3.0

名匠ワイルダーに初めてのオスカーをもたらした名作心理ドラマ。
アルコールに溺れ、身を滅ぼしていく男のとある週末を描いた物語。
大都会のビル群からアパートの一室の窓からぶら下げられた酒瓶へとカメラがパンしていくファーストカットから素晴らしく、酒を求めて策を弄するだけの話を回想や幻覚を織り交ぜながら一本の作品にしてしまう語り口はさすがの手腕でした。
今作よりはるか前にシュールレアリズム的な映像表現が試みられていたことを考えると、今作での禁断症状による悪夢的幻覚の表現は物足りなく感じてしまいますが、映画史上初めてアルコール依存症を扱った作品としての意義は間違いなくあるのだろうと思います。
もっと壊滅的な展開を期待すると甘っちょろい結末に肩透かしをくらいますが、主人公が作家という設定をうまく活かしたオチではありました。
ただ、それなら作家ならではの苦悩にもっとフォーカスしてくれれば、酒に溺れた原因まで深掘りしながら、オチもより膝を打つものになっていた気がします。

13位 疑惑の影 3.0

叔父への疑惑が自らの身に迫る恐怖へと変わっていく過程を地味ながらも丁寧に描いた佳作。
設定から結末まで、劇的な要素を意図的に抑えるかのような演出がじわじわとした恐怖を見事に表現しています。
ストーリーとしては物足りなさが残りますが、完成されつつあったヒッチコックの演出テクニックを楽しむには最適な作品です。

12位 ミッキーの船長さん 3.0

50年代以降にディズニーが放った名作長編アニメーションの数々に監督として携わったクライド・ジェロミニによる短編。
お馴染みのトリオがボートの乗組員として沈没船の救助に向かおうと奮闘する物語です。
3人が物に翻弄されるパターンにはシャープスティーンの傑作「大時計」や「造船技師」がありますが、今作も負けず劣らずの良作でした。
ミッキーの出番が少ないのは気になりますが、2人がその分見せ場を作って活躍していますし、オチも笑えて楽しかったです。

11位 三人の騎士 3.0

ウォルトの南米旅行を着想とし、戦時中の善隣外交の一環として制作されたディズニーアニメーション。
鳥の生態を解説するネイチャードキュメントのような序盤から、音楽に乗せて南米各国の文化を紹介する中盤とストーリー度外視で詰め込まれた情報量が凄かったです。
そんな中でも白眉はシュールな世界へ突入する終盤で、「ダンボ」のピンクの像ほどダークではないものの、実写も交えて発想の飛躍を映像化した素晴らしいシークエンスでした。
今作のドナルドはいつものようにイジワルすることはなく、怒ることもほぼないので笑いには欠けますが、実写の女性にデレデレしたり、やけに素直に合いの手を入れたりとかわいい一面をたくさん見せてくれるのが新鮮で良かったです。

10位 ドナルドとゴリラ 3.0

ドナルドダック主演のディズニー短編アニメーション。
動物園から脱走したゴリラが家に現れて、ドナルドと3人の甥っ子たちが家中を逃げ回るストーリーです。
シンプルゆえにそのテンポが抜群で、特に後半の追いかけっこにおけるスピード感と差し込まれるギャグのアイディアはディズニー短編の中でも屈指のクオリティだと思います。
竹馬状態で逃げるドナルドの必死な顔には幼心にもハラハラしつつ大笑いしたのを覚えています。
ゴリラがちゃんと凶暴で緊迫感がしっかり感じられるも良かったです。

9位 深夜の告白 3.0

チャンドラーと共同で脚本執筆したワイルダーの監督としての出世作。
美しい人妻に誘惑された保険外交員が保険金殺人に加担していく様を描く物語です。
ファムファタールに翻弄され身を滅ぼした男によってインモラルな犯罪の顛末が回想形式で語られるスタイルは正にノワールの雛形で、結末が分かっていてもその過程が十分スリリングに語られているのはお見事でした。
特に鋭い推理力で主人公を追い詰めていく同僚の存在が効いていたと思います。
一方で人妻は過去が語られることでその本性が垣間見えはするのですが、もっと極悪な素顔が明かされるかと期待してしまったのでやや物足りなさはありました。
それでも不安が膨らむ一方で娘に心惹かれたりと揺れ動く心理描写の巧みさは素晴らしかったです。

8位 子供たちは見ている 3.5

戦後ネオレアリズモの先駆けと称されるデ・シーカのキャリア初期の秀作。
子供を振り回す大人たちの事情をある1人の少年の視点から描く物語です。
母の不倫現場を目撃するシーンや海岸沿いを走るショットには「大人は判ってくれない」への直接的な影響が見られ、デ・シーカ自身が後に手がけるネオレアリズモ期の傑作群においても重要な純真無垢な者の視点が今作で形作られています。
中盤までは近隣住民の噂話や不倫相手がストーカー化する描写が入り、大人たちの愚かしさを描く狙いは良いものの、イマイチ子供視点に寄りきれていないためにそれらのエピソードが効果的でない印象でした。
しかし終盤の20分で少年をどん底に叩き落とす流れが凄まじく、一家にとっては悲劇である結末に溜飲が下がる思いをする程素晴らしかったです。

7位 靴みがき 3.5

ネオリアリズモと称された戦後イタリアの厳しい世の中を生きる貧しい人々の悲哀をリアルに描いた作品群の一つに数えられるデ・シーカ初期の秀作。
馬を買い取りたいという共感しづらい少年たちの憧れは自転車やバイクに置き換えると身近なものに感じられ、一日一日を必死に生きる中で無垢な願いを抱いたばかりに悲劇的な運命を辿る物語として涙を誘います。
大人の策略が引き起こしたすれ違いによって引き裂かれる二人の少年の友情は、もう少し序盤の日々の暮らしの中で深掘りしておいてくれたらより悲劇性が増していただけに、あっさりしすぎな導入がもったいなかったです。
中盤以降は収容施設がその舞台となり、それぞれの環境で過ごす内に二人の溝が深くなっていく様は切ないです。
そしてそこで暮らすのが当たり前のようにすら見える年齢の割に大人びた子どもたちの姿は、生きていく為に少年時代が存在していない当時の敗戦国イタリアの社会を感じさせます。
ラストの悲痛な叫びとは裏腹に、全ての始まりであった馬は自由気ままに去って行くのが皮肉でした。

6位 市民ケーン 3.5

5位 チャップリンの殺人狂時代 3.5

罪とは何か、悪とは何か。猫や虫や、哀れな女性を助ける優しさを持った男が、一方では良心の呵責なく金のために人を殺す。文明を発展させる産業による経済的な殺人と、国を拡大する戦争による大量殺人と、私利私欲のための個人による殺人と、その間にある不確かな倫理観を描いたブラックコメディです。
テンポの良いコミカルなシーンが多い一方で、やっていることはかなりダーク。それゆえに観ている人の倫理観も試されているような気がします。

4位 ピノキオ 4.0

イタリアの児童文学を原作にした名作アニメーション。
素晴らしい音楽とかわいらしいキャラクターが織りなす冒険物語は、クラシックなディズニー映画らしい道徳的で教訓的なストーリーですが、悪いことの表現と罰し方が強烈で、幼心にトラウマを植え付ける作品としても知られています。
夜中に出歩くこと、お酒やタバコに溺れること、乱暴をすること、これらが良くないことだというのは罰を見なくても十分に伝わってくるのですが、そこに追いうちをかける罰が恐ろしいです。
さらに嘘をついた時の妖精からの罰は、当人に罰している感がないのが余計恐ろしく、しかも人間の子になりたいと願うピノキオにとっては、自分が木材だと思い知らされるショッキングな仕打ちだと感じてしまいました。
悪役だと思っていた2匹がかわいく思えるようなさらなる悪役が出てくるのも、子どもながらに衝撃的でした。
とはいえ、そんなトラウマシーンすらテンポ良く展開するストーリー運びは素晴らしく、プレジャーアイランド脱出後に少しダレるものの、最後まで怒涛の展開で楽しめました。

3位 第三の男 4.0

誰もが口ずさめるテーマ曲の知名度に比べると、作品自体は意外と観られていませんが、まぎれもないサスペンスミステリーの傑作です。
タイトルの通り第三の男の謎がストーリーを引っぱり、散りばめられたヒントがテンポ良く回収されていく展開は見応えがありました。
水平バランスを意図的に崩した斬新なショットは驚きで、多用しすぎの感はあったものの、分割統治下の不安定な情勢と異国の地での主人公の不安をうまく象徴していました。
他にも、画になる街ウィーンを映しとったカメラワーク、光と影を巧みに操った効果的なライティング、長回しによるラストカットの粋な演出と隅々にまで技巧が凝らされている点も大きな見どころとなっています。
真相が明らかになってからのラスト30分は、それぞれの思惑が交錯する人間ドラマへと見事な転換を見せ、作品の格を引き上げています。

2位 ダンボ 4.5

ディズニーが誇る号泣必至の名作アニメーション。
他の象よりも耳が大きく産まれた子象の主人公は、周りからのけ者にされ、嘲笑われ、蔑まれ、馬鹿にされます。
そんな中でも唯一愛情を注いでくれていた母が隔離されてしまう前半の展開は涙なくしては観られません。
後半は他者との違いを個性であり強みとして活かして大逆転するディズニーらしい結末へと向かい、それはそれで道徳的なメッセージとして良いのですが、むしろ前半と物語の転換点となるサイケデリックなトランスシーンにこそ今作の価値があると思いました。
前半の母と引き裂かれる悲しみは子供心にこそ響きますし、後半まで乗り越えさせる気があるとは思えない長尺のトランスシーンはトラウマ間違いなしのアニメ映画史上屈指の名シーンだと思います。

1位 自転車泥棒 4.5

敗戦国イタリアが生んだネオレアリズモと呼ばれるムーブメントを代表する名作。
自転車を盗まれるだけの話をここまで悲しみにあふれた悲劇にできてしまうことに驚きです。
ファシズムへの批判、貧しさと社会不安が生んだ心に余裕のない人々、不条理劇を思わせる堂々めぐりの展開、それらすべてが魅力的ではありますが、個人的には親子の微妙な関係性が特に印象的でした。
情けなく頼りない父親を見てしまった時の息子の悲しさと恥ずかしさが入り混じった感情は筆舌に尽くしがたく、ラストシーンで言葉を交わすでもなく、とぼとぼと家路につく2人の姿がそれを象徴していました。


いかがでしたでしょうか。
1940年代は戦中戦後の時代背景を反映した名作が生まれた時代でした。
次回の記事では、1930年代を取り上げます。

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