映画公開年別マイベスト 1962年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1962年で、7本の作品が3.0点以上でした。

7位 皆殺しの天使 3.0

ブニュエルにとってダリと共作したシュールレアリストとしての初期作品と、晩年のフランスでの人を食ったような作風との中間地点でその橋渡しをするような不条理劇の傑作。
晩餐会にやって来た上流階級の人々が、何ら物理的な拘束はないにも関わらず、何日も屋敷から帰れなくなってしまう物語です。
着飾った人々がいちいち見た目を気にしながら、まるで雪山や無人島で遭難したかのようにヒステリーを起こしていく姿が滑稽に描かれます。
普段は召使い達に偉そうに指図していても、彼らがいなくなった途端にサバイバル能力の低さが露呈する様にはブニュエルらしいブラックユーモアが詰まっていました。
本作の系譜に連なる「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」と比べると、こちらの方がシリアスで迫力に優る一方で、よりユーモラスなあちらの方が完全に小馬鹿にしている感じで皮肉としては鋭かった気がしました。

6位 ロリータ 3.0

原作の方が有名な、おそらくは唯一のキューブリック作品です。
少女への危険な愛情というよりは、年の差カップルにしか見えず、原作の持っている危うさを表現できていないことは、キューブリック自身も認めるこの作品最大の欠点。
物語の結末を冒頭に持ってきて、ミステリーとしての体を成したことでそれなりに興味を持続させられていますが、根本的なテーマがぶれてしまった感は否めません。

5位 何がジェーンに起ったか? 3.0

ベティ・ディヴィスとジェーン・クロフォードという互いにハリウッドの黎明期から活躍し、不仲でも知られた2人が共演したサイコスリラーの古典。
かつては人気子役でありながら女優として大成せず今は酒におぼれる妹が、不遇の子供時代を経て女優として成功を掴んだものの車イス生活を余儀なくされている姉への嫉妬と憎悪を爆発させ、その常軌を逸した行動が暴走していく物語です。
有名なディヴィスの怪演ぶりは凄まじく、悪魔のような邪悪さと少女のような奔放さを併せ持つ狂気に染まった人物像はグレン・クローズやキャシー・ベイツが後に演じるキャラクターの源流という感じがしました。
同じ様なシチュエーションでのカットバックを繰り返す中盤はサスペンスとしておもしろいのですが、さすがに展開不足で冗長さは否めなかったです。
それでもラストで明かされる明かされる真実には単なるどんでん返しでない意味が持たせられているのは良かったですし、情報量の多いラストカットも素晴らしかったです。

4位 水の中のナイフ 3.0

ポランスキーの長編デビュー作。
ヨットの上という限定空間で繰り広げられる微妙な人間心理を描いています。
20代で制作したにしてはテーマが成熟していますが、画面を分割して奥行きを作るような人物配置を繰り返したり、マッチしていないジャジーな音楽は背伸びしているような印象でした。
前半は何かが起こりそうな不穏な雰囲気は良かったものの、冗長なのは否めません。
しかしラスト30分は感情の高まりと共にサスペンスが加速し、俄然おもしろくなっていきます。
船の上から消えた人、残された男女、嘘と秘密と欲望の交錯という終盤の展開はアントニオーニの「情事」を思い起こさせました。

3位 冬の光 3.0

巨匠イングマール・ベルイマンの”神の沈黙”三部作に数えられる傑作。
妻を亡くし信仰が揺らいだ牧師が苦悩しながら日課である説教に臨むとある1日を描く物語です。
神の沈黙というテーマをストーリーに潜ませるのでなく、それだけを直接描くハードコアな80分は衝撃的ですらありました。
神を信じたくても信じられない牧師の言葉の空虚さ、神を信じていない女の押し付けがましい愛情、そのすれ違いの哀しさが美しい陰影のモノクロ画面に見事に映し出されていました。
救えなかった信者の元に駆けつけてからその場を立ち去ろうと車に乗り込むまで、1カットも寄りを挟まず、なす術もない牧師の無力さと傍観するだけの神の視点を際立たせる恐ろしく印象深いシーンでした。
あまりにもミニマルかつダイレクトすぎて広がりはない気がしましたが、この一点における作劇の極地であると思いました。

2位 女と男のいる舗道 3.0

12の章立てで構成されたゴダールの長編4作目。
舞台女優を夢見る女がやがて道端で客引きをする娼婦となる姿を描く物語です。
以前の作品と比べるとカメラワークと編集が安定しており、作家として成熟した印象を与える一方、会話の場面で後頭部をユラユラ左右に振れるカメラでとらえるユニークなショットが繰り返されるなど、決して無難なスタイルに落ち着いてしまったわけではないバランスが絶妙でした。
章立て形式も効果的で、キーワードを示すことにより台詞に頼らずとも各章のテーマが明確になり、振り幅の狭いストーリーの物足りなさを補っています。
白眉はビジネスのシステムを解説する様を見事なモンタージュで表現した8章で、カットを選び繋ぐことの効果を存分に発揮していました。

1位 ラ・ジュテ 4.0

映像を解体し、紙芝居的な手法で再構築を試みた実験的な傑作短編SF。
受け手に対して支配的なメディアである映像に比べ、静止画の連続は良くも悪くも情報が制限され、想像力に訴えかけてきます。観客の想像力を刺激できる設定が用意できたなら、無理して安っぽい映像を作るよりもずっと賢く効果的な手法だと思いました。
アマチュア映像作家に計り知れない希望を与え、一つのジャンルとして興隆を極めてもおかしくないインパクトですが、圧倒的に魅力的な世界観ありきというハードルの高さが、同じレベルの作品が後に生まれなかった原因なのかもしれません。
画的な部分に注目しがちですが、詩的な台詞、ナレーションのリズム、そして聞き取れないささやき声は、今作の音として強く印象に残ります。


いかがでしたでしょうか。
1962年は新しい世代の映像作家たちがその才能を続々と披露し始めた年でした。
次回の記事では、1972年を取り上げます。

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