映画公開年別マイベスト 2016年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは2016年で、15本の作品が3.0点以上でした。

15位 ギミー・デンジャー 3.0

パンクやオルタナティブロックの源流となったバンド ザ・ストゥージズの軌跡をたどる音楽ドキュメンタリー。
バンド結成前から、レコード契約のきっかけ、イギーポップが受けた音楽的インスピレーションに後世のバンドへ与えた影響まで、時系列で丁寧に追いかけていきます。
基本的に作り手の全肯定のスタンスが丸出しなので、ドキュメントとしての物足りなさはあります。
ただ、本人たちへのインタビューに当時のライブ映像、イメージ的に挿入される古い映画やアニメーションまで、あらゆる手法でわかりやすく表現することに徹していて好感が持てます。
イギーのキャリアを包括的に描くのではなく、掘り下げるのはストゥージズ時代だけに絞っているので、まだ聴き始めたばかりの人にも最適です。

14位 ハドソン川の奇跡 3.0

ニューヨークのハドソン川に旅客機が不時着しながら一人の死者も出さなかった奇跡と、渦中の人物となった機長を描いたドラマ。
イーストウッドは2回目のオスカーを手にして名匠としての評価を確たるものとして以降、実話ベースの作品を多く手がけていますが、事実を忠実に描いたり、逆にドラマチックな部分を装飾したりする為でなく、その状況における人間の変化や感情の動きを映し出す為に設定を借りているにすぎず、それがハイペースで作品を量産できる秘訣なのだと思います。
今作もその例に漏れず、サスペンス的な要素は中盤の再現で早々に明らかにされますし、ドラマとしてはクライマックスでのあまりにそっけない演出がカタルシスに欠けています。
それは今作の狙いが、行く先々で英雄と持ち上げられる一方で乗客の命を危険にさらした疑いもかけられ、そのどちらも実際の自分とは違う虚像であることに不安と違和感を感じる主人公の内面を描くのが目的であるからだと思いました。
その目論見と中盤までの成果は良かっただけに、エンドロール含めた終盤をやけにキレイにまとめ上げてしまっているのは物足りず、もったいなかったです。

13位 キューブリックに愛された男 3.0

巨匠スタンリー・キューブリックから絶大な信頼を得ていたイタリア人の運転手のエミリオが30年に渡る思い出を語るドキュメンタリー。
完璧主義者として知られるキューブリックは構想段階で徹底的なリサーチをするために、クランクインする前には膨大な量の資料とメモが積み上がったそうですが、それは私生活においても同様だったことがよく分かる内容でした。
運転だけでなく、食料の買い出しにロケハンにと日に日に何でも屋と化していく様はユーモアで済まない悲哀が溢れていました。
しかし信頼され、必要とされることで満たされていたことに離れて初めて気がつき、ましてそれが偉大な才能からであれば至上の喜びにすらなると感じさせるキレイな結びはお見事でした。

12位 マンチェスター・バイ・ザ・シー 3.0

ロバート・エガースの長編監督デビュー作。
植民地時代のニューイングランドの人里離れた農場で暮らす敬虔なピューリタンの一家が森の中に潜む邪悪な存在によって崩壊していく様を描く物語です。
舞台設定からして集団ヒステリーと魔女狩りが連想され、もちろんそれがモチーフとなったオカルトホラーが展開されるのですが、監督の興味が次作「ライトハウス」同様に閉鎖的な環境で狂っていく人間心理に向いているのはおもしろかったです。
配分としてオカルトパートに寄っており、全体の尺も短いために作家性強めな作風の割には娯楽性が担保されていて良かったですが、その分疑心暗鬼に陥った人々の心理をグイグイ掘り下げていく肝となるはずの描写がやや手薄になった感は否めませんでした。
追い詰められた心が見せる妄想なのか、邪悪な力の導きなのか曖昧にしておくバランス感覚は的確で、ラストの裸踊りも悪魔との契りを想起させつつ明確には示さない絶妙な距離感の幕引きだったと思います。

11位 HUNT/餌 3.0

アムステルダムの街中に突如現れたライオンによって、美しい運河の街が恐怖に見舞われるアニマルパニックムービー。
どこからともなく襲われるサスペンス、ハンターが登場してから繰り広げられるアクション、そして三角関係の恋愛要素と盛りだくさんの内容で、90年代に「小さな目撃者」をヒットさせたディック・マースがツッコミどころは満載ながらも安定した手腕を見せてくれます。
B級感にあふれる邦題やパッケージとは裏腹に、ハリウッドのような潤沢な予算は無いながらも、娯楽大作を目指した制作陣の奮闘が感じられて微笑ましかったです。
ミント好きの刑事や役立たずの所長、間抜けなハンター親子に無能な議員と脇役のキャラが濃くて魅力的なのですか、欲張って無闇に尺を伸ばしすぎなかったのが良かったです。

10位 死霊館 エンフィールド事件 3.0

「死霊館」の続編であり、ユニバースの三作目となったオカルトホラー。
呪われた一家を心霊研究家の夫婦が救う毎度お馴染みの物語です。
前作に比べて演出に遊び心が加わった印象で、シリアスな雰囲気はやや薄れましたが、お化け屋敷的なアトラクションホラーとしてはより楽しめるようになっていました。
いかにも霊と通じてしまいそうなキャラクターの弟だけでなく、姉たちもそれを取り巻く大人たちも、離れた場所の夫妻すらもバンバン心霊現象の餌食となっていき、出し惜しみしない手数の多さが良かったです。
しかし夫婦合流後の子どもたちとの交流シークエンスはさすがにクサかったです。
尺の長さも含めて欲張りすぎだった気がしました。

9位 すばらしき映画音楽たち 3.0

映画音楽とその作り手に着目したドキュメンタリー。
ジョン・ウィリアムズのようなレジェンドからダニー・エルフマンやハンス・ジマーといった現役の巨匠、そして近年のヒット作を手がける売れっ子たちまで数々の音楽家たちが登場し、インタビューで語られる裏話や制作の模様などが次々と映し出される構成です。
作り手の視点が批評的なものでなく、純粋に敬愛する映画音楽への賛美であることが素晴らしく、ドキュメントとしての深みや国と時代の網羅性は薄い代わりに終始ニコニコしながら観られる作品になっています。
終盤のバンドマンの進出の件がトレント・レズナーだけなのはガックリで、ジョニー・グリーンウッドにも触れてくれたら嬉しかったです。

8位 ソーセージ・パーティー 3.0

大人向けの食料品版トイ・ストーリー的なアニメーション。
アニメとはいえかなりえげつない下ネタが連発され、ブラックなギャグが多いです。
人間との関わり方の設定が雑だったり、食品以外の生き死にの概念が曖昧だったりとストーリーに詰めの甘さは否めませんが、ブラックジョークが好きなら楽しめると思います。

7位 ズートピア 3.0

肉食動物と草食動物が仲良く共生しているはずの街ズートピアで、警察官としてより良い世界の実現を目指す主人公の奮闘を描いた物語。
2種類の動物の間に潜む被害者意識と差別意識は、人間の世界の人種や主義といった属性間の対立感情とどうしても重なって見えてしまいます。
それに対して偏見を捨てれば融和できるというメッセージはアニメとはいえ甘い気がするものの、そこにユートピアをもじった名前が付けられているのが皮肉に感じました。
とはいえ、そんな読みなど不要なストーリー自体のおもしろさがあって、シンプルに楽しめるのが良かったです。

6位 デッドプール 3.5

アメコミ原作ながら過激な残酷描写と下ネタでR指定を受けたものの、それをものともせずに大ヒットしたアクションコメディ。
一作目にありがちな誕生秘話的な説明に終始することなく、回想形式でバックグラウンドを伝える流れが鮮やかでした。
ギャグも単に下品なわけではなく、皮肉を交えたり言葉遊びのようなやり取りが満載でで楽しめました。
メタ的なギャグもうざったくならないギリギリのラインで取り入れていて良かったです。
アクションシーンは派手かつスピーディーで良いのですが、不死身という設定によって緊張感が生まれづらくなっており、クライマックスでの攻防もおもしろみと盛り上がりに若干欠けている気がしました。

5位 RAW~少女のめざめ~ 3.5

00年代のフレンチホラーの波が落ち着きつつあった頃に公開され、その枠に収まらない存在感を放ったジュリア・デュクルノーの長編デビュー作。
獣医学校に入学してカニバリズムに目覚めていく女の物語です。
異様な新入生歓迎の縦社会文化やショッキングな食人シーンが目を引きますが、単なるキワモノホラーではなく、過保護な両親に育てられたウブな少女が自身の中に眠る欲求を自覚して開花させていく抑圧からの解放と成長の物語として機能させているのが素晴らしかったです。
姉や両親、ルームメイトの心理描写が不足していて、会心の出来だったであろう終盤の展開からのオチをもってしても、行動原理に不自然さが残るのは否めません。
それでも短めの尺の中で娯楽性と芸術性を程良いバランスで掛け合わせることに成功していると思いました。

4位 きっと、いい日が待っている 3.5

デンマーク国内で絶賛を浴びた実話という触れ込みで公開されたヒューマンドラマ。
貧困と病によって親から切り離され、施設に入れられた兄弟がそこで経験する壮絶ないじめと虐待の日々を描いています。
わずかな期待を抱かせては毎度それを上回る失望を突きつける展開が容赦ないのですが、兄弟同士が支え合い、上級生からのいじめも初めの内だけなのでそれほど絶望感はありません。
希望を最後まで失わなかったことが、自分だけでなく周囲の状況を変えるきっかけとなる結末は実話とはいえタイミング的にできすぎな気がしましたが、感動的ではありましたし、引き際が良いのも良かったです。
「2001年宇宙の旅」へのオマージュも、単に猿人が骨を振りかざす姿を真似させるのではなく、あのシーンが武器という道具を獲得したことで人間へと進化するのを表しているように、幽霊になることに努めていた少年が勇気という武器を手にして宇宙飛行士へと進化したことを象徴させていたような気がしました。

3位 わたしは、ダニエル・ブレイク 4.0

妻を介護の末に亡くし、体を壊して仕事も失った初老の主人公が貧しいシングルマザーと出会い、互いに助け合いながら再起を図るも社会の仕組みに押し潰されていく様を描いた人間ドラマ。
妻を失った主人公にとって40年続けてきた大工仕事を奪われることは、人間性の剥奪に等しかったのかもしれません。
不器用ながらも突破口を見つけようともがいた結果は虚しくやるせないものでした。
哀しいのは接する人たちが基本的に皆優しく、温かいことです。
もっと意地悪に描けそうな役人や警備員、もっと悪人にできそうな売春斡旋人でさえ、自身の仕事を実直にこなしているだけです。
個人個人はそうでも、組織がそれを凍結させ、機能させるための仕組みが機能していない皮肉。
痛烈な社会批判は表現としてあまりに率直すぎて解釈の幅は狭い気がするのですが、その分ヒリヒリするような生々しさを獲得しています。

2位 シング・ストリート 未来へのうた 4.0

80年代のアイルランドを舞台にした傑作青春音楽映画です。
学校でのイジメや教師への反発といった要素は軽めで、ミュージシャンとしてバンドとしての成長と恋愛模様に重きを置いています。
作品としてのメッセージ性はほぼ兄が代弁しており、結末もあいまいなので深みはあまりありません。ただサクサクと話が進むので、退屈する暇がないのは素晴らしいと思います。
そして何より音楽が優れているので、そのテンポの良さと相まって良質なミュージックビデオ観たような満足感を味わえます。

1位 パターソン 4.5

ニュージャージー州の平凡な町パターソンでバス運転手として暮らす男パターソンの何気ない日常を描いた傑作。
毎日同じ時間に起きて、同じルーティンで出勤し、いつも乗客の話に耳を傾けながら、頭の中で推敲した妻への愛の詩をノートにしたためる。
日々の繰り返しを執拗に強調することで、その中で起きるささいな出来事がかけがえのない大切なものに見えてきます。ポエマー少女との出会いも、仕事上のトラブルも、妻の唐突な思いつきも、そのすべてがインスピレーションになっているのです。
淡々と日々を送り、感情的になることなく、ハプニングにも落ち着いて対処するパターソンと、天真爛漫で言動全てがトリッキーながらも、どこまでも素直な妻という正反対なのに深く結びついた2人は映画史上屈指の愛らしいカップルだと思います。
大成功することだけが夢を叶えることじゃない。ささやかでもクリエィティブであり続けることの大切さを教えてくれる一本です。


いかがでしたでしょうか。
2016年はドキュメンタリーにアニメ、娯楽大作から社会派作品までバラエティ豊かな中で、ジャームッシュが2作品と気を吐いた年でした。
次回の記事では、2013年を取り上げます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました