映画公開年別マイベスト 1968年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1968年で、12本の作品が3.0点以上でした。

12位 テオレマ 3.0

ブルジョワ階級の家庭崩壊を描いたパゾリーニによる寓話。
裕福な一家の元にどこからともなく現れた妖しい魅力の青年が住み着き、その関わりをきっかけに家族はそれぞれ均衡を崩し、以前までの暮らしには戻れなくなる物語です。
それぞれの肉欲に溺れていく両親と信念が揺らぎ我を失う子供達の姿は、価値観の変動に耐えられない人間の脆さに対するシニカルな視点を感じさせます。
ただそれ以上に鮮烈な印象を残すのは堕落していくブルジョワ一家とは対照的にキリスト的な奇跡を起こし始める女中で、屋根の上の空中浮遊はもはやギャグでしたが、あくまでシリアスなトーンで立場の逆転を描いて見せるのがユニークでした。

11位 ブリット 3.0

60〜70年代最高のアクションスターだったスティーブ・マックイーンの代表作。
型破りだが凄腕の刑事が上司にドヤされながらも事件を捜査していく過程に、見せ場としてのアクションシーンを配置するという今作の構成は、後のポリスアクションの雛形となりました。
急勾配な坂道が多いサンフランシスコの街並みを活かしたカーチェイスが何より有名で、CGのない時代にしてはという枕詞を必要としないほど、色褪せない迫力でした。
一方でストーリーとしては凡庸で、ラストシーンに象徴される人間味を失っていく主人公というダークなテーマは作中まるで掘り下げられていません。
それでも今作が興行的に成功したという事実には、内容よりも派手な見せ場が求められるアクション映画というジャンルの原型を見たような気がしました。

10位 ビートルズ/イエローサブマリン 3.0

キャリアの初期から映画もリリースしてきたビートルズですが、その中でもアイドル映画的な作品群とは一線を画しポップアートとして評価されているアニメーション映画。
60年代らしいサイケな色使いとシュールな展開は子ども向けアニメの枠に留まるものではなく、過去の楽曲のイントロやアウトロを効果音的に使ったり、セリフの中に曲名を忍ばせたりとファンサービスも詰まったなかなかマニアックな内容でした。
子どもでも口ずさんでシンガロングできるキャッチーなポールの楽曲、ナンセンスさとメッセージ性、ハードさと優しさの両極を併せ持つジョンの楽曲、サイケデリックな雰囲気に哲学的な歌詞でアート寄りのジョージの楽曲とビートルズの音楽性の幅広さを感じられるのも良かったです。
タイトルのイエローサブマリンとサージェントペパーズがアニメーションのモチーフになってはいますが、ポールよりもむしろジョンの曲の世界観にマッチしているように感じられるのもおもしろいところでした。

9位 ワイズマンとのピクニック 3.0

普段は部屋から出ることのない蓄音器やクローゼットが、野原でピクニックを楽しみます。
その様子は生き生きとしており、生の喜びを謳歌しているかのようです。
やがて季節が過ぎて落ち葉が降り積もると、衣替えでもするように、人間はクローゼットからお払い箱になります。
人と物の境界が曖昧なシュヴァンクマイエルらしい作品です。

8位 狼の時刻 3.0

芸術家の内面の苦悩と狂気を描いたベルイマン中期の秀作。
妻と島で暮らす画家が不眠症に苛まれ、イマジネーションの源が現実と空想の間で不確かになっていく物語です。
画家のトラウマと悪夢的な幻想はベルイマン自身のそれで、そこに登場する虚実不明の人々は内面に住むペルソナを表している気がしました。
そして精神が混沌とした夫に寄り添う妻の心理もそこに同一化していきます。
妻を筆頭に演者が何度もカメラに向ける視線が印象的で、それはベルイマンから観客への語りかけであるように感じられました。
内面の表出である作品を好き勝手批評されるのは、愛の営みを寄ってたかってニタニタと眺められるようなもので、記憶の中で美化された昔の恋人が着想になることは多分にあるでしょうし、そのインスピレーションを今の恋人には知られたくない気持ちも含め、難解な表現で意外にも共感しやすい心理を描いている気がしました。
ベルイマンが深遠なテーマを扱うにも関わらず短尺で多作なのは、一から十まで描かないだけでなく、一つのカットの画面を分割した構図によって多くの情報を詰め込むために、少ないカット数で済んでいることも影響しているのであろうことがよく分かる作品でした。

7位 泳ぐひと 3.0

ニューシネマの時代に公開された不条理劇の怪作。
人の家の庭のプールを泳ぎ繋いで家まで帰ろうという子どものような意味不明のチャレンジを試みる男が、厳しい現実に直面する様を不必要なスローモーションや幻想的なカメラワークなど奇妙な演出で描いています。
「卒業」のプールを羊水に見立てた演出は有名ですが、今作は公開こそ後になったものの撮影は66年にされていたらしく、現実に向き合えずモラトリアムから抜け出せない男の隠れ蓑として水を扱う演出の先駆かもしれないと思いました。
冒頭の晴天下で誰もが優しく歓迎してくれる環境は子ども時代を思わせ、その後のバート・ランカスターの年齢に不釣り合いな若々しい肉体が躍動するパートは青春時代の衝動を想起させます。
孤独な少年がプールの水を失っているのも象徴的です。
もはや誰もプールに入らない段階では、水に飛び込む男は冷笑され、侮辱され、冷たくあしらわれ、しかしそれでも水中にいることを望む無邪気すぎる男は手厳しく拒絶されます。
市営プールの共有の水はルールの下に使用を許可されるものであって、男を庇護してくれるものではないので、豪雨となって容赦ない現実を叩きつけ、良くも悪くも無垢な心を破壊します。
クライマックスに向けてイマイチ盛り上がっていかないストーリーテリングの難は感じましたが、激動の時代のハリウッドで生まれた悪夢的な寓話として楽しめました。

6位 庭園 3.0

家の周りを手をつないで囲う人々。賭け事に興じる者、抵抗を試みる者、服従する者、まるで社会の縮図のようです。
不気味な雰囲気と意味深な結末は素晴らしいですが、メタファーとしては直接的すぎる気がします。
台詞を説明的に使ってしまっているところも、らしくない欠点ですが、シュヴァンクマイエル初期の代表作として観る価値ありです。

5位 猿の惑星 3.5

衝撃的な設定と結末で知られる名作SF。
社会風刺としてのディストピア描写はあまりにも直接的で、決して巧みとは思えませんが、その世界観は今観ても十分にショッキングです。
主人公の傲慢で独善的な振る舞いにも、女性と味方のチンパンジーがやけに従順であるのは不自然で、その態度こそ風刺されている人間の愚かで身勝手な振る舞いである気がするのですが、そこに自覚的に性格付けているようには思えませんでした。
メッセージは強烈ながらも今ひとつ腑には落ちませんでしたが、それでもSFアドベンチャーとして十分に楽しめます。

4位 ローズマリーの赤ちゃん 4.0

オカルトと心理サスペンスを巧みに融合させた傑作ホラー。
隣人への不快感がやがて大きな不安へと広がっていき、夫すら疑わしくなっていく過程の神経がすり減るような心理描写がお見事です。
悪夢なのか妄想なのかは観客にも明かされないので、その不安を主人公と共有することになるのですが、周囲の人々のどう考えても怪しいのに確証が得られない感じが絶妙で、自分自身すら疑わしくなっていく中でお腹の子はどんどん大きくなっていくことの恐怖は悪魔やモンスターよりもずっと恐ろしかったです。
儀式翌朝の夫がやけにナチュラルなのですが、役者という設定を思い出してやけに納得してしまいました。
後味が良くはないものの悪いとも言いきれない結末では、怒りや恐れを超えた母親の覚悟が仄めかされているような気がしました。

3位 ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド 4.5

ゾンビ映画というジャンルにとっての記念碑的作品。
人間が持つもっとも根源的な感情の一つである恐怖を使って、人間のエゴや暴力性といった醜さや愚かさをあぶり出すことに成功しています。
ホラー映画が単なるお化け屋敷的なものではなく、強烈なメッセージ性や高い芸術性を持ち得るとしたら、今作は間違いなくその最高峰と言えます。
ストーリーはとてつもなくシンプルですし、テクニック的にも古めかしさは否めません。
特にアメリカではニューシネマによる文法解体の風が吹き荒れている時期でありながら、今作の作りは50年代かと思うほど旧時代的です。
しかしその設定やストーリー展開、ブラックな結末と内容が素晴らしく、そして何よりゾンビというキャラクターを作り出した革新性によって今作は不滅の存在となっています。

2位 部屋 4.5

何をやっても思い通りにはならず、期待したものは得られない。そしてそれは抗いがたい運命のように自身に降りかかっている。この部屋はまるでプラハの春当時のチェコの社会情勢を反映しているように思える一方で、それは人生そのものであるとも感じられます。終始無表情だった彼が、ラストで名前を記す前に見せた、人間的でありながら機械的な表情はいったい何を示しているのでしょうか。シュールレアリストの真骨頂が見られる、悪夢のような傑作。

1位 2001年宇宙の旅 5.0

「人間以前」から「人間以後」まで、映画史上最大級のスケールで描かれる人類史。
我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか。その一つの答えがこの2時間半の中にあります。
息をのむような美しい映像と音楽の融合は、内包するテーマの壮大さに完璧にマッチ。哲学的SF映画の原点であり頂点です。
そのクオリティと影響力は、20世紀を代表する現代アートの名作と言えます。


いかがでしたでしょうか。
1968年は非現実的な世界や日常から遠く離れた世界に強烈なメッセージ性を内包した傑作が数多く生まれた年でした。
次回の記事では、1955年を取り上げます。

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