映画公開年別マイベスト 1991年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1991年で、9本の作品が3.0点以上でした。

9位 マイ・プライベート・アイダホ 3.0

ガス・ヴァン・サントによるポートランドを舞台にした青春ドラマ。
男娼として路上暮らしをする若者たちの刹那的な生き方を描いた物語です。
ストーリーは粗っぽく無駄も多いのですが、汚らしい身なりでも眩く輝くリヴァーとキアヌが同じ画面に並ぶのを観続けられる喜びが鑑賞を苦にはしません。
ニューシネマの再現のような雰囲気で社会の片隅で生きる苦しみや孤独を感じさせながらも、あまり切迫感はなく、曖昧な結末も後味の悪いものではなかったです。
セックスシーンのユニークな表現やエンドロールのデザインにはキューブリックへのオマージュも感じられてニヤリとさせられました。

8位 テルマ&ルイーズ 3.0

巨匠リドリー・スコットによるウーマンエンパワーメントなロードムービー。
鬱屈した暮らしを送る2人の女の週末旅行が指名手配犯の逃避行へとエスカレートしていく様を描いた物語です。
明るくヌケた所のあるテルマと理性的で暗い過去を背負うルイーズの対象的ゆえに補完し合うキャラクターのバランスが良く、2人を抑圧する男性優位社会へのカウンターとして暴走していく過程は爽快でした。
侮辱してくる男たちの描写がワンパターンなのは”男”への風刺として良いのですが、その割にハーヴェイ・カイテル演じる刑事のやけに2人に寄り添ったスタンスが違和感で、作り手に偽善的な印象を抱いてしまいもったいなかったです。
“理解ある男”もいる世界観とするなら、”最低な男”にバリエーションを出さないと説得力に欠けた気がしました。

7位 美女と野獣 3.0

ルネサンス期のディズニーを代表するヒット作であり、アカデミー賞史上初めて作品賞にノミネートされたアニメーション作品となった恋愛映画の傑作。
物語の主軸となるロマンスは二人の性格付けが都合良く変わっていく印象であまり胸に響きませんでした。
むしろキャッチーな音楽や絵の美しさ、個性豊かな脇役たちのキャラクターといった補佐的な要素の方に目を引かれました。
歌唱シーンはそれぞれが長すぎる気はしましたが、楽曲が十分すぎるほど魅力的なので不思議と飽きずに観られてしまいます。
有名なダンスシーンでは手描きの中にCGが効果的に使われることで素晴らしく美しいシーンとなっていました。

6位 ゆりかごを揺らす手 3.0

キレた女の恐ろしさを描く良作が多く放たれた90年前後のサイコスリラーの1つ。
産婦人科医の猥褻行為を告発した女性とその家族に対し、逆恨みした女の魔の手が忍び寄る物語です。
言い逃れできない悪者を早々に退場させたのが正解で、女に同情の余地が生まれたことで単なる異常な犯罪者ではなくなり、ジワジワと狡猾に罠を仕掛けていく前半はむしろ応援したくなりました。
女の行為が一線を越え始めたタイミングでの被害者側への視点の入れ替えもスムーズでした。
終盤で真実が明らかになる方法が稚拙だったり、クライマックスでは女のそれまでの賢さが消え去ってまんまと反撃を受けてしまうあたりはもったいなかったですが、十分に良質なサスペンスだったと思います。

5位 バートン・フィンク 3.5

クリエイターにとっての生みの苦しみを観念的に描いたコーエン兄弟の出世作。
新進気鋭の劇作家としてハリウッドに招かれ、書きたくもないレスリング映画の脚本を書くことになった主人公の苦悩が、蒸し暑いホテルの部屋、剥がれる壁紙、顔を刺す蚊、隣室から響く声、それら不快な要素を積み上げることで見事に具現化しています。
その後サスペンスに寄り道しながら不条理劇へと傾いていく展開は「欲望」を思い起こさせます。
謎を放り出すような後半の展開は筋としての面白みには欠けているものの、脚本の完成から狂気のクライマックスを経て美しいラストシーンへと至る終盤の流れは、芸術とビジネスの間で引き裂かれていくアーティストの怒りと悲しみと現実逃避に政治思想までをも投影した素晴らしいシークエンスでした。

4位 ボーイズ’ン・ザ・フッド 3.5

まだ20代前半だったジョン・シングルトンの監督デビュー作にしてブラックムービーの傑作。
貧しい黒人が多く住むロサンゼルスの街では犯罪や暴力が日常に蔓延しており、そこで育つ若者たちの未来にも暴力の連鎖が暗い影を落としていく物語です。
キューバ・グッディング・Jrとアイス・キューブの出世作となったのに加え、息子を正しい未来に導こうとする父親をローレンス・フィッシュバーンが好演しています。
白人からの直接的な人種差別描写は無く、貧しい黒人同士が憎しみ合い足を引っ張り合う愚かさを容赦無く描きながら、その背景にある社会構造が彼らをどうもがこうと抜け出せない世界に閉じ込めていることを感じさせる語り口が素晴らしかったです。

3位 ナイト・オン・ザ・プラネット 3.5

5つの異なる都市を舞台に、タクシーの運転手と乗客という共通項を持った5つの物語が描かれるジャームッシュの秀作オムニバス。
タクシーという空間は初対面の2人が一定時間密室で共に過ごす気まずい状況を必然的に生み出すという点でジャームッシュにうってつけで、そこでのコミュニケーションに求める距離感や量が人それぞれであることで、微妙なズレとすれ違いが起こり、それが言葉にできない可笑しさや切なさや温かさを生み出しています。
ロスのお話は、決して互いに良くなかったであろう第一印象から爽やかな結末までの心情変化の描写がお見事でした。
ニューヨークのお話は、言葉の壁という要素を追加した優しいユーモアにあふれる良作でした。
パリのお話では、罵り言葉をあれだけ詰め込みながらポジティブな雰囲気でまとめるという離れ業が披露されています。
ローマのお話は、ベニーニの独壇場で最もシンプルなコメディでした。
ヘルシンキのお話は、不幸の中でも懸命に生きる小市民というテーマはもちろん、ミカとアキというネーミングからもカウリスマキへのオマージュが感じられて微笑ましかったです。

2位 ふたりのベロニカ 4.0

あまりにも儚く、美しいキェシロフスキの代表作。
異なる国で育った別人ながら、双子のようにうり二つの二人のベロニカ。二人の運命は神秘的に絡み合い、共鳴することで物語は展開していきます。
この世界のどこかにいるかもしれない、もう一人の自分。それを恐怖よりも安心を与えてくれる存在として描いたところが素晴らしく、その存在を示す描写がなんとも詩的で、いわゆるドッペルゲンガーをこんなにもロマンティックに描いた作品は後にも先にもこれだけでしょう。
主演したイレーヌ・ジャコブの存在がこの運命の儚さと美しさを見事に体現しています。

1位 ターミネーター2 4.0

1作目を超えた稀有な続編として有名ですが、ジャンルが変わっているので単純比較は難しいのが正直なところです。
ホラー要素は薄れ、アクション比率が大きく増しています。そして恋愛要素は親子愛へと変化しています。
予算規模が大きくなったこと、前作が十分に傑作だったことを考えると、「エイリアン」の時も成功したこの路線変更は大正解であり、見事な成果を上げています。
前作同様、タイムパラドックスに気を取られるよりは、火薬量の増えたターミネーター同士の戦いを見守っている方がシンプルに楽しめます。


いかがでしたでしょうか。
1991年はハリウッド大作にディズニーアニメという娯楽作品のヒット作と、アート志向の映像作家の傑作とが混在した年でした。
次回の記事では、2005年を取り上げます。

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