映画公開年別マイベスト 1993年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1993年で、14本の作品が3.0点以上でした。

14位 ミセス・ダウト 3.0

監督と主演の組み合わせを見ただけで家族で安心して観られると分かるファミリー向けコメディの定番。
きわどいネタがなくテレビ放送にも最適なあたりは90年代のコメディらしくはあるのですが、演出もストーリー展開も甘すぎて物足りなさは否めません。
子供たちに早めに正体を知られますが、その後父親のサポートをしてくれるわけでもないので、ごまかして取り繕うおもしろさが半減しただけになっており、もったいない展開でした。

13位 ギルバート・グレイプ 3.0

娯楽が少なそうなアイオワの田舎町を舞台に、あらゆるものに縛られて自分の可能性を閉じ込めてきた青年が、家族や周囲の人々との交流を通じて成長していく様を描いたヒューマンドラマ。
主人公と家族は確かに愛し合ってはいますが、それが必ずしも互いのためにはなっておらず、共依存的な状態です。
現実逃避のような人妻との不倫や外の世界を知る相手との控えめな恋、そして家族同士の間で微妙に交錯する感情といった繊細な表現でエピソードを積み上げていく構成が良かったです。
しかし結局主人公の今後に決定的な影響を及ぼすのは終盤で唐突に起こる出来事であって、それまでに描いてきたエピソードの結果というよりも、人の決断に拠っているのは物語としてのカタルシスに欠けた気がしました。

12位 逃亡者 3.0

逃亡者と名乗りながらも、逃げるというよりは警察以上の捜査能力で真犯人へと近づいていく主人公と、包囲網を敷いていく捜査官の姿を描いたヒット作です。
事件の真相が解き明かされていくミステリアスな要素と、追いかけっこのスリルが密度高く詰まっており、飽きる暇なく楽しめます。
捜査官側に間抜けなキャラクターがおらず、首尾よく主人公を追いつめていくので観ていてストレスがなく、主人公が手がかりをつかむ、捜査官側がすぐに居場所を特定する、間一髪脱出する、という流れのテンポが良かったです。
ただ、主人公一人であそこまで調べられるのなら、裁判の段階でもっとなんとかならなかったのかと思ってしまいました。

11位 デモリションマン 3.0

冷凍保存から蘇生した警官と悪党の宿命の対決を描いた近未来SFアクション。
子どものような無邪気さで悪事を働く悪役のキャラが良く、ウェズリー・スナイプスのはまり役でした。
ストーリーは平凡ですが、近未来の設定描写がおもしろく、価値観の違い、モラルの違い、文化の違い、あらゆるギャップを使ってギャグを挟み込んでくるので飽きることなく楽しめました。
銃撃戦あり、殴り合いあり、爆発ありのサービス精神旺盛なアクションも良かったです。

10位 カリートの道 3.0

デ・パルマとパチーノがギャングスタの聖典「スカーフェイス」以来10年ぶりに手を組んだクライムドラマ。
裏社会の大物だった男が5年ぶりに出所し、堅気として生きようと模索する物語です。
「スカーフェイス」のような成り上がりのストーリーには共感できない価値観だと、今作のようなかつての世界に引きずり込もうとする様々なしがらみに抗う姿の方により共感できました。
恋愛要素の描写が今ひとつなために中盤はやや中だるみした印象でしたが、演出からカメラワークまで全てが高品質なクライマックスのシークエンスは素晴らしかったです。
結末を冒頭に示してしまう構成も、主人公の逃れられない宿命を示しているようで効果的だったと思います。

9位 恋はデジャ・ブ 3.0

朝目覚めると昨日と同じ1日が繰り返されるループにはまり込んでしまった男を描いたタイムリープものの古典的作品。
脱出のために原因を究明させたくなるところですが、そんなSF的な展開には向かわず、設定をあくまでラブコメを盛り上げるための装置として使っていることが奏功しています。
感じの悪い嫌なやつだった主人公が、同じ日を繰り返すうちに人々に感謝され尊敬される人物へと変わっていく様は古き良きアメリカ映画的なベタな展開のようで、制作年代の割に古臭く感じますが、それでも楽しんで観られました。

8位 トリコロール/青の愛 3.0

西欧でも評価の高まっていたキェシロフスキに対し、フランス政府は国旗のトリコロールカラーをテーマに映画制作を依頼します。
そうして作られた3本の連作は結果的に彼の遺作となりました。
一作目では交通事故で家族を失った女性が喪失感から立ち直り、乗り越える過程を描いています。
愛する者を失った女性を描くという点で「終わりなし」を想起させますが、今作の主人公はしっかりと克服し、前に進みます。
そこに死者との交信のようなスピリチュアルな要素はなく、亡き夫の書きかけのレクイエムがありました。キェシロフスキの芸術への信頼と期待が伝わって来るようです。

7位  時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!  3.0

ヴェンダースが自身の代表作の続編として手がけたカンヌでのグランプリ受賞作。
人間の心の中の呟きに耳を傾ける天使が人間界に舞い降り、真っ当に生きようと奮闘する物語です。
アート寄りだった前作に比べコミカルで取っ付きやすいタッチになっており、その点評価低めな本作ですが、天使が人間に恋をするロマンティックさが少々しんどかった身にはこれくらいの軽さの方が好ましかったです。
モノクロとカラーの使い分けや心の声が聞こえる力、そして当座の資金代わりの鎧と天使設定は前作を踏襲するも、ナスターシャ・キンスキーの神々しい美貌以上に説得力のあるものはありませんでした。
そしてデフォーの堕天使はこれ以上ない素晴らしいキャスティングだったと思います。

6位 ナイトメアー・ビフォア・クリスマス 3.0

ハロウィンの、そしてクリスマスシーズンの定番となったファンタジーアニメーションの傑作。
ハロウィンの街の王であり、英雄である主人公がクリスマスに憧れるという設定がまず素晴らしいです。
奇妙で不気味だけれどどこかかわいげのあるキャラクター造形と音楽が魅力的で、イマジネーション豊かな世界観に身を委ねる楽しみがあります。
ただ、人を怖がらせることが良いこととされる世界における悪が、決してその反面の人を喜ばせたり安心させることでないという概念が理解しづらく、気になってしまいました。

5位 フォーリング・ダウン 3.5

あらゆることに怒りをぶちまける男を描いた怪作。
蒸し暑い日に交通渋滞に巻き込まれ、イライラが頂点に達した男は車を乗り捨て、どこかへ立ち去ります。
冒頭からボルテージマックスの主人公は、役柄的に短期で感情的なイメージのあるマイケル・ダグラスのはまり役と言えます。
ハンバーガーショップでバーガーの写真と実物が違うというあるあるをハイテンションで叫ぶシーンは最高に笑えて素晴らしかったです。
後半は男の素性と目的が明らかになっていき、収まりの良い結末へと向かってしまうのが残念でした。
一見理不尽で常軌を逸しているようで芯の通った主人公の言動には不思議な爽快感があったので、異常な犯罪者ではなく、シュールな展開へと突き進んでほしかったです。

4位 パーフェクト ワールド 3.5

同年に逃げる男と追う男を描きアカデミーにもノミネートされたヒット作「逃亡者」があることで、影に埋もれがちな隠れた秀作。
時代設定が古いこともあって、逃亡劇自体はスリリングとはほど遠く、むしろアメリカ南部ののどかな雰囲気が印象的です。
ぶっきらぼうでも性根は優しい主人公と人質となった少年の心の交流は、ストックホルム症候群とは違う、擬似ではあっても親子愛の物語となっています。
2人が違う形で出会っていればと思うほど、タイトルに込められた皮肉がきいてきます。
涙を誘う結末ではありますが、名もなきキャラクターに汚れ役を任せてしまうのはズルい気がしました。

3位 ジュラシック・パーク 3.5

特殊効果のレベルが急速に発展した90年代を代表する、娯楽映画の教科書的な作品です。
キャラクターの造形と配置、緩急のあるストーリー、お手本のようなサスペンス演出、見せ場を見せ場として印象付ける音楽、それら全てに隙がありません。
誰も見たことのないものを空想世界の産物としてではなく、ごく自然に見せるという点で、もっとも適切な特殊効果の使い方だと感じます。
演出にはあざとく感じる部分も少なくないですが、恐竜という子ども心をくすぐる題材を扱っている作品にはマッチしていたのかもしれません。

2位 ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ! 3.5

ニック・パークが生んだ名作クレイアニメの第2作。
下宿人を募集した2人の元にやって来たペンギンにはある目論見があり、大騒動が巻き起こる物語です。
朝の身支度におけるグルミットの忠犬ぶりに癒される序盤、キーアイテムのマシンをうまく使ってサスペンスを盛り上げる中盤、スピード感あふれる怒涛のクライマックスの終盤と短編の構成として完璧だったと思います。
クライマックスにおける活躍ぶりはグルミットこそ本シリーズの主役と言える素晴らしさで、手練れのペンギンも手強い悪役として優秀でした。

1位 フード 5.0

「食」をテーマに3つのストーリーを描いた、個人的なシュヴァンクマイエル最高傑作です。お互いが飯を食うためのシステム。人間関係をそう端的に表したような「朝食」は、彼の一貫したスタンスを示しているように思えます。繁栄に必要なのは性欲ですが、生存に欠かせないのは食欲です。それを忌み嫌うような不快感を伴う表現は、シュヴァンクマイエル作品の特徴といえます。システムの中で味気なくも均衡を保っていた「食」は、自由を得た「昼食」で、越えてはならないボーダーを超えてしまいます。そして「夕食」のころには、それすら楽しめるようになるのが、人間であり、人が作る社会なのです。


いかがでしたでしょうか。
1993年はハリウッド製のヒット作の中に良質な作品が多く生まれた年でした。
次回の記事では、2003年を取り上げます。

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