映画公開年別マイベスト 2012年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは2012年で、10本の作品が3.0点以上でした。

10位 ダークナイト ライジング 3.0

CHRISTIAN BALE as Batman in Warner Bros. Pictures’ and Legendary Pictures’ action thriller “THE DARK KNIGHT RISES,” a Warner Bros. Pictures release. TM & © DC Comics.

ノーラン版バットマンシリーズの完結編。
前作以上に豪華なキャストで、文字通り奈落の底へと突き落とされたバットマンが再び立ち上がる姿を描いています。
とにかくいろんなことが同時多発で起きているストーリーは追いかけるのが大変です。
いろんなエピソードを詰め込みすぎていて、長尺の割には説明不足だったりやけに都合の良い展開だったり、ストーリーテリングは今ひとつな印象でした。
しかしそれでもシーン毎の迫力はすさまじく、シリーズの締めくくりにふさわしいスペクタクルを堪能できます

9位 ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日 3.0

一隻のボートでトラと漂流することになったインド人少年のサバイバルを描いたヒット作。
数奇な人生の物語を語り手が聞き手に回想しながら語る構成に目新しさはないですし、回想に入って行く際の演出も所々安っぽく感じてしまいましたが、漂流が始まってからの展開は限定的なシチュエーションの中でも緩急が付いていて飽きずに楽しめました。
トラを始め動物たちの姿を生き生きと映し出した映像も素晴らしかったです。
過酷な経験をしながら生き延びた主人公の物語はラストに急旋回を見せ、単なるファンタジーではなかったことを示唆します。
そのサバイバルは生きる為の肉食による罪悪感と葛藤を、一度は訪れながらも離れた島は肉食が生む食物連鎖を示しているように感じられます。
主人公の選択の結果、彼が生き延びたことは神の存在を示唆する宗教的寓話と捉えることもできますが、単純に人間と動物の交流記としても楽しめる作りなのが良かったです。

8位 ロンドンゾンビ紀行 3.0

原題を日本風に言うなら、江戸っ子対ゾンビでしょうか。
「スナッチ」でロンドン側のボスを演じたアラン・フォードが元軍人の老人として老人ホーム仲間を率いて大活躍するゾンビコメディです。
老人対ゾンビというユニークな設定でイギリス映画らしいシニカルなギャグを放つアイディアがまず楽しかったです。
それだけでは展開に行き詰まることを見越してか、前半は孫たちの銀行強盗計画を主軸として並走させ、後半に合流させる構成がうまくて飽きさせません。
低予算丸出しで、いろいろと雑であることは間違いないのですが、気楽に観られる良作でした。

7位 アベンジャーズ 3.0

マーベルシネマティックユニバースが興行面で映画史上最大のフランチャイズとなるのには、この定期的に催されるヒーロー大集合のお祭り企画の存在は不可欠でした。
映像コンテンツが簡単に手元に届くようになり、ライト層の観客をわざわざ映画館のスクリーンの前に連れて来るには、その中身よりも参加して体験できる要素が求められる時代において、アベンジャーズ企画はドンピシャだったのだと思います。
ストーリーは横目に見る程度にして、とにかくその迫力ある映像に身を委ねて楽しめました。
個性豊かで我の強いヒーローたちがついに結束し、協力して敵に立ち向かうクライマックスはやはり胸踊りますし、ニューヨークの街が戦場と化す映像も迫力満点でした。

6位 ムーンライズ・キングダム 3.0

少年と少女の二度に渡る逃避行をとぼけた笑いを交えて描いたイノセントなラブストーリー。
2人の淡々とした感情表現はおかしくも可愛らしくて魅力的です。
相変わらずストーリーはぼんやりとしていて、シュールなコント集的な印象は否めないのですが、不思議と何度も観たくなる味わいがあります。
とぼけた雰囲気と愛らしい世界観、喋りまくる登場人物たち、垂直平行移動しまくるカメラ、そして絵本のようにカラフルなビジュアルとウェス・アンダーソンらしさが完成したような印象でした。

5位 ジャンゴ 繋がれざる者 3.5

黒人が銃を持ち馬に跨るタランティーノ流の西部劇にして復讐劇。
前半ではドイツ人の賞金稼ぎと彼によって自由人となった奴隷のジャンゴの出会いを描き、後半には二人でジャンゴの奪われた妻を取り返そうと画策する物語です。
前半はバディが築かれていく様をテンポ良く描いている一方、中盤の展開はやや冗長です。
しかし、いざ屋敷に乗り込んでからは静かな緊張感がずっと持続し、何回かの唐突な激しいバイオレンスでタランティーノらしさを見せながらラストまで突っ走っています。
ストーリーは逆に珍しく一直線で、視点が変わることも時系列が前後することもないのですが、紆余曲折を詰め込んだ豊かな物語を作り出しています。
作中に登場するのは人種差別主義者であれば皆極端なまでの悪人であり、その勧善懲悪ぶりは人の善悪は肌の色とは関係ないのだと言っているような気がしました。

4位 テッド 3.5

かわいい見た目のテディベアが下品なことを言うギャップによる笑いのフォーマット自体はベタなものですが、それを一つのギャグとしてではなく、作品の骨子としていることが新鮮です。
主人公とテッドの間にある長い付き合いの男友達ならではの独特なノリがうまく表現されていました。
かなり際どい下ネタが多いのですが、そのギャグに頼るのでなく、ストーリーが意外にもしっかり作られているので飽きずに観られます。

3位 ライク・サムワン・イン・ラブ 3.5

イランの巨匠アッバス・キアロスタミが日本を舞台に日本語のセリフと日本人キャストで撮った異色のドラマ。
狭いアパートで1人暮らす元大学教授の年老いた男、デートクラブでバイトする女子大生、車の整備工場で働くDV気質のその彼氏、という三者の奇妙な出会いとその結果を描く物語です。
冒頭から大事そうな場面で喋っている人物を映さず、ドラマとして最も劇的になるはずの場面を前に幕を引くという徹底した視界の制限が大いに想像力を掻き立てます。
嘘が積み重なる展開の中、誰にも共感させてもらえず、不穏な気配だけが漂い続けるサスペンスが巧みで、あまりにも自然な三者の芝居が実際に起きたとある出来事を垣間見てしまったような気持ちにさせます。
ハネケほど突き放したスタンスではないですし、ダルデンヌ兄弟ほどどん底を扱ってはいませんが、それらに近い視点だった気がします。

2位 汚れなき祈り 3.5

カンヌで脚本賞と女優賞を得たルーマニアの俊英クリスティアン・ムンジウの実話に基づくドラマ。
修道院で悪魔祓いの儀式の末に女性が死亡した事件を元に、視野の狭い共同体の中で正義と信じて行われる行為の恐ろしさを描く物語です。
孤児院育ちで、病院からは追い出され、里親の元にも戻れない彼女の扱いに困る神父と修道女たちの様子は滑稽です。
しかし当人たちは至って深刻で、悪魔の仕業と心底信じているのか、都合の良い解釈を自分に与えているのか判別し難い描写が絶妙で、八方塞がりに陥る過程がダルデンヌ仕込みの物陰からただ見つめるだけの視点で映し出されていきますす。
真綿で首を絞めるような100分間は退屈に感じる場面もありますが、それが過ぎ儀式開始以降は凄まじく面白くなり、祈りの無意味さとそれ以上に人間の愚かしさが強烈に描かれていました。

1位 愛、アムール 4.0

オーストリアの鬼才ミヒャエル・ハネケに二作連続のパルムドールをもたらした傑作ドラマ。
シンプルなタイトルの通り、老老介護の状況下で紡がれる一組の老夫婦の愛の形を描いた物語です。
人間の命、そして生きること死ぬことの意味を探るテーマ設定は次作「ハッピーエンド」はもちろん、デビュー作「セブンス・コンチネント」にも通じています。
静的なカメラが長回しで映し出すのは、当たり前のように寝たきりの妻の世話をして、歌を聴かせ、傍らで語りかける夫の姿です。
前半での妻の悲観的な発言が効果的で、淡々とした日常の中に時折訪れる微かな感情の発露の度に、いつ夫の心が折れてしまうのかと緊張感が持続します。
枕を手に取る夫の手が一度わずかにためらう動きに、この上ない愛情を感じました。
孤独の淵で絶望し、追い詰められていくのではなく、家族や親切な隣人、かわいい教え子など人との関わりがあった中での結末だからこそ、それがはたから見れば歪んだ愛であったとしても、その決断には否定しようのない説得力が与えられていたと思います。


いかがでしたでしょうか。
2012年はハリウッドの超大作からヨーロッパのミニシアター系作品まで幅広く良作が生まれた年でした。
次回の記事では、2018年を取り上げます。

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