映画公開年別マイベスト 2022年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは2022年で、15本の作品が3.0点以上でした。

15位 MEN 同じ顔の男たち 3.0

小説家としてキャリアをスタートさせたアレックス・ガーランドが監督3作目にして辿り着いた怪作ホラー。
夫との別れの忌まわしい記憶から心を癒すためにカントリーハウスを訪れた女性が恐ろしい体験をする物語です。
たとえ男性が無自覚であろうと、その存在と振る舞いが女性に対して与えている精神的な圧力と恐怖を、ハウスインベージョンもののフォーマットに落とし込んでいます。
りんごやタンポポの種といった分かりやすいものから理解困難な石像のモチーフまで、多くのメタファーが散りばめられた描写は読み解くことの楽しさを与えてくれるのですが、暗喩のための暗喩に陥っている印象で、ストーリーとしては展開が物足りなかったです。
終盤のしつこすぎるシーンは、それだけならグロテスクなビジュアルでクライマックスらしい盛り上がりを作ろうとした安易な演出に見えましたが、ラストで初めて生身で現れた友人の姿によって、ゾッとさせる効果を生んでいた気がしました。

14位 トップガン マーヴェリック 3.0

数十年ぶりの続編はアイディア枯渇の象徴として否定的に捉えられることも少なくないですが、そんな先入観を吹き飛ばした大ヒット作。
一作目はストーリーの行き先が曖昧で、いかにもMTV的なカッコいい映像とドラマチックな音楽で構成された中身のない作品という印象でしたが、今作では明確なゴールを設定してくれたことで安心して身を委ねられて楽しかったです。
とにかくトム・クルーズのサービス精神がそのまま表れた作品で、上官との衝突や旧友との再会、恋と擬似親子関係のドラマ、切磋琢磨するパイロット同士のいがみ合いと友情、息詰まる空中戦とミッション、そして当然のように従来のファンへのサービスカットと行間がまるでない程詰め込まれています。
それゆえビーチのアメフトで簡単に絆が生まれるような浅はかな場面が散見されても、これだけ詰め込んでくれていたら許さざるを得ず、無心でスクリーンに没頭できる良質なエンタメ作品でした。

13位 ギレルモ・デル・トロのピノッキオ 3.0

ギレルモ・デル・トロが長年温めた念願の企画ピノキオのストップモーションアニメーション。
原作の映像化でもディズニーアニメの実写化でもなく、キャラクターにもストーリーにもデル・トロ独自の解釈が加えられた内容になっています。
前半は異形の存在と人々の邂逅を通じてアイデンティティを問ういつものテーマに、亡くした子供の代わりを勝手に期待する親のエゴを絡ませています。
後半はファシスト政権下での支配者と被支配者の関係がその問題を複雑化させつつ、アドベンチャーとしての盛り上がりを作ることにも成功しています。
使い古された物語でも、その中に自身が見出している要素を膨らませて構築し直せば、単なる焼き直しにはならないことを見事に証明していると思いました。

12位 ノースマン 導かれし復讐者 3.0

ロバート・エガースがハムレットを始めあらゆる王位継承にまつわる復讐物語の元ネタになったアムレート伝説を題材に描くファンタジーアクション。
過去の長編二作は限定空間で人間の内面に迫る作家性強めな作風でしたが、今作では予算規模だけでなく、ストーリーのスケールも飛躍的に向上しています。
そしてかなりエンタメ寄りの分かりやすい話になってはいるものの、個性が失われた訳ではなく、禍々しい雰囲気作りには貫禄さえ感じられて良かったです。
ただストーリーの中に走るいくつかの軸がうまく絡んでおらず、配分を誤っている印象でした。
復讐劇の動機作りから状況設定まではトントン拍子に進みすぎな一方、いざとなるとまどろっこしい展開に陥り、ロマンス要素も運命の呪縛から逃れるか否かの重要な決断に関わるには描き込みが浅かったです。
中盤にはかつて殺したはずの甥っ子の呪いに苛まれるスリラーが始まってしまい、本当はそっちがやりたかったのではと思える力の入れようで楽しいものの、それがさらに展開を遅くしているのは残念でした。
メインキャストとして宣伝されているベテランたちがそろって友情出演程度なのも寂しかったです。

11位 エンパイア・オブ・ライト 3.0

サム・メンデスが海辺の町の寂れた映画館を舞台にそこで働く人々の繋がりを描いたドラマ。
不安定な心を抱える映画館のマネージャーの中年女性と新入りの黒人青年が心を通わせていく物語です。
限定的なロケーションであることを感じさせない見事な撮影は素晴らしく、静かながら力強くもある傑作を予感させる語り口もとても良かったです。
傷ついた人々の心の拠り所として映画館という場所を神聖視するピュアな視点を期待してしまったので、話が進むに連れて違和感が増えていき、特に支配人だけでなく主人公たちもそこでの仕事中に性愛を満たすことには幻滅してしまいました。
「ブルース・ブラザース」にジョイ・ディビジョン、スーパートランプと冒頭から出てくる名前が時代設定を想起させられ嬉しくなりますが、当時のイギリスの社会的背景が物語にうまく絡んでいるとは思えず、悪役は支配人とスキンヘッズのどちらかで良かった気がしました。

10位 デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム 3.0

デヴィッド・ボウイの軌跡を初公開映像を織り交ぜて描く音楽ドキュメンタリー風のアートフィルム。
70年代にジギースターダストとして生んだ狂騒、ベルリンでの芸術的達成、80年代のポップスター化を経て90年代に得た心の平穏までが振り返られていきます。
第三者のナレーターや関係者の証言を排除し、本人の語りのみで進行する構成は素晴らしかったですが、脚本にも監督の名がクレジットされている通り、時折差し込まれるコラージュ映像に監督のエゴが出ていました。
使い回される映像もあり尺が長すぎる気はしましたし、いくつかの曲は歌を聴かせずBGMとして使うなど不満な点はありましたが、この惑星にボウイという存在がいたことに感謝できる貴重な作品ではありました。

9位 ザ・メニュー 3.0

孤島の高級レストランに招かれた客たちが天才シェフの考案したメニューによって恐ろしい体験に見舞われるスリラー風のブラックコメディ。
最小限の前フリで早々に本題に入るテンポの良さや、緊張感の途切れない話の進め方が良かったです。
提供する側と消費する側の互いに見下し合いながら共依存する関係は、飲食でも芸術でも性産業でも同様で、作り手として単に消費者を批判をするだけでなく、それぞれが本質を見失っている姿を描くバランス感覚は素晴らしかったと思います。
そしてその間でおいしいところを持っていく批評家への皮肉は強烈です。
しかし着想の良さの一方でストーリーの弱さは否めず、自らハードルを上げながらそれを超えられていません。
観客に驚きを与えたり予想を裏切ったりしようと意図した展開がいくつかありますが、いずれもユニークさに欠けているのはもったいなかったです。

8位 TAR/ター 3.0

トッド・フィールド16年ぶりの新作で、ケイト・ブランシェットの熱演が話題を呼んだスリリングなドラマ。
超一流のオーケストラ指揮者兼作曲家リディア・ターの公私共に順調な人生の静かな崩壊を描く物語です。
キャラの奥行きが素晴らしく、それは単にブランシェットの演技力によるリアリティだけでなく、ターという人物の音楽的才能の確かさと危うさ、有能なコントロールフリークによって得られる成果の反面、権力集中が生む組織の私物化、それらがが絶妙なバランスで描かれることで単純化されていない生々しい人物像が説得力を持って映し出されています。
エピソード的には「イヴの総て」の系譜に連なる打算と裏切りのドロドロした内幕ものあるあるをうまく現代風に仕上げていましたが、性的多様性の受容のされ方まではテーマとして良いとして、超自然的な描写や心理スリラー的な展開の部分はやり切れていない印象で、取って付けたような結末も含めて余分だった気がしました。

7位 Pearl 3.0

A24初のシリーズものとなったスラッシャーホラーの続編である前日譚。
前作での惨劇のおよそ60年前にあの農場で何が起こり、なぜダンサーを夢見る若妻パールは殺人鬼となったのかを描く物語です。
保守的かつ威圧的な親の支配と若者としての欲求や夢の間で苦悩するという青春ものの定型を用いながら、前作同様に視覚メディアにおけるポルノの夜明けになぞらえて性的衝動と残虐描写を描いています。
約束された悲劇を語る上では冒頭からパールの猟奇性を垣間見せたのは正解で、いつスイッチが入るのかという緊張感が持続し、終盤の爆発にも納得感がありました。
その終盤は完全にミア・ゴス劇場で、極端な感情の浮き沈みをダンス、長台詞、そして強烈なラストカットで見せた凄まじいパフォーマンスは作品の質を数段引き上げたと思います。

6位 ハッチングー孵化ー 3.0

少女がこっそりとベッドで温めた鳥の卵が巨大化して孵化したことから歪な家族の虚像が崩れていく様を描いたフィンランド製の心理ホラー。
無関心と過干渉の親の組み合わせが思春期の子どもの精神に与えるストレスを寓話的に描き、美しさと汚さの同居が生理的な嫌悪感を引き起こすビジュアルが印象的でした。
SNS、弟、不倫相手、嘔吐、鏡などテーマの元に配置される記号がメッセージを分かりやすく補足説明してくれるのですが、表面的に置いただけにも感じられ、もう少しそれらを関連付けて深掘りしてくれていたらドラマとしての見応えもあった気がします。
ただその深みと引き換えの尺の短さが、深刻になりがちなテーマの割に意外な観やすさを生んでいるのは良かったと思います。

5位 エスター ファースト・キル 3.0

00年代を代表する傑作ホラーだった前作の前日譚を描く続編。
ロシアの精神病院に入院していた患者が身分を偽ってアメリカに渡り、行方不明の少女エスターとしてその家族と暮らし始める物語です。
前作の肝だった正体が既に明らかな状態での続編作りが困難であったことは想像に難くないですが、一味違った満足感を与えながら繋がりに納得感もある見事な続編でした。
前半は前作よりスリルが少ない焼き直し的な内容で先行き不安でしたが、予想外の展開は秀逸なアイディアで、そこからの心理戦、そしてカタルシスさえ感じるクライマックスは素晴らしかったです。
ホラーとしての怖さは薄れましたが、エンタメとしてのクオリティは十分だったと思います。

4位 イニシェリン島の精霊 3.0

内戦時代のアイルランドの孤島イニシェリンを舞台にしたマーティン・マクドナーによるブラックコメディ。
友人に絶交を告げた男と告げられた男が辿る顛末を描く物語です。
絶交の理由をキーに引っ張る展開と思いきや、早々に理由を明かすことで、その状況下での両者の行動にフォーカスさせる構成が巧かったと思います。
自己実現のために煩わしい人間関係を切り捨てたくなる気持ちには共感できますし、心当たりが無くても敵意を向けられたらこちらも敵意が湧いてくるのも理解できます。
しかしその表し方が双方不器用で、亀裂が深まっていく様がおもしろかったですし、個人レベルの小さな諍いを不毛な内戦の寓話として示すのも良かったです。
終盤の展開の驚きが薄く物足りない気はしましたが、この地味な物語を飽きさせないのは凄いと思いました。

3位 ザ・ホエール 3.0

ブレンダン・フレイザーが見事なカムバックを果たしたダーレン・アロノフスキーによるドラマ。
自力では普通の生活も送れない肥満体の男が死期を悟り過去の行いと向き合うことになる物語です。
主人公が置かれた境遇の閉塞感を表すような薄暗い一室でほぼ全編が語られ、味方かと思いきや傷つけ、傷つけたと思いきや救う展開が狭い部屋の狭い人間関係の中で描かれます。
曜日のカウントと共にままならない人生の皮肉がジワジワ迫ってくるのが哀しく、エッセイによりささやかな浮力が与えられる結末が良かったです。
アロノフスキーらしい強烈な苦々しさは控えめでしたが、一筋縄ではいかないドラマを描くクオリティはさすがでした。

2位 X 3.5

タイ・ウェストが製作と監督に加え、脚本と編集の四役を務め、ミア・ゴスがキーパーソンの一人二役に挑んだA24のホラー。
79年のテキサスを舞台に、農場の老夫婦に離れを借りてポルノを撮影しに来た一行が惨劇に見舞われる物語です。
田舎のイカれた一家は「悪魔のいけにえ」、ワニで死体処理は「悪魔の沼」と初期トビー・フーパー愛が伝わってくる設定でした。
分割画面やシーン移行時のフラッシュフォワードは、監督役が序盤に語る凝った編集を体現していて楽しかったです。
テレビで流れる保守的な布教者の演説が老夫婦の思想を表し、ポルノ撮影という設定は一行を隠すべき欲望を刺激してくる悪魔であり、排除すべき存在だと示してくれるので、惨劇への説得力が生まれています。
そして老夫婦を単なる異常な殺人狂とせず、一行を70年代的なフリーセックスを享受してはいても一人でうろつく老人を労わる優しい心を持った若者とすることで、欲望への向き合い方という両者の差が際立ち、老いることの悲哀が強調されていた気がします。
それら登場人物の背景描写のためにスラッシャーホラーとしては前半が物足りなく感じますが、難解になってしまうことなく娯楽性を担保したバランス感覚が良かったです。

1位 トリとロキタ 3.5

ベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟が移民や貧困といった社会問題を取り込みながら、2人の若者の絆と生きることの過酷さを描いた社会派ドラマ。
姉弟と偽ってベルギーで暮らす移民の2人がままならない状況から脱却しようと危険な仕事に手を染めてしまう物語です。
社会の端っこで懸命に生きる人々の姿、娯楽性を失う寸前まで削ぎ落とされたストーリー、素人同然の俳優の起用、被写体の少し後ろから見つめ続けるカメラ、といった完成されたスタイルに最早驚きはなかったですが、BGMを避けるいつもの演出は2人の繋がりを象徴する歌を際立たせた今作で特に効果的でした。
近年の作品では選択肢の少ない困難な状況の中にも多少の希望を見出していた印象でしたが、初期に立ち戻ったような今作の容赦のなさは強烈で、70代に入って尚、問題意識が衰えない2人の底力に感嘆させられました。


いかがでしたでしょうか。
2022年はゾッとするような良作が生まれた年でした。
次回の記事では、2019年を取り上げます。

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