映画公開年別マイベスト 2017年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは2017年で、13本の作品が3.0点以上でした。

13位 REVENGE リベンジ 3.0

ニューウェーブ・オブ・フレンチホラーの流れを汲みながら、00年代の作品群とは一線を画したバイオレンススリラー。
暴力の対象となった女性が超人的な体力で男たちに復讐するシンプルなストーリーです。
メッセージ性を持たせるにはあまりに雑な設定と理屈の弱い展開がネックでしたが、内面描写はほぼ省き、追いかけっこのサスペンスと残酷描写を見せることに注力した潔さが良かったです。
彩度高めな画面作りが印象的で、くすんだ血の色が逆に際立つのがおもしろかったです。
前半と後半で視点をすり替え、ハンターと獲物が逆転した状況でサスペンス的なシチュエーションを生み出し続けてくれるので飽きずに楽しめました。

12位 テリファイド 3.0

Jホラー的なじっとりした雰囲気とアメリカンなショック演出が共存したアルゼンチン発のオカルトホラー。
じわじわとポルターガイストを積み上げるのかと思いきや、浴室でのショッキングな光景が唐突に飛び込んでくる導入から引きつけられました。
その後も定点カメラの映像でじっくりと恐怖をあおったり、かと思えば子供が車にはねられるサプライズを差し込んだり、さらに死体が食卓につくどこかシュールな不気味さを作り出したりと緩急自在な引き出しの多さが良かったです。
超常現象に対して躊躇なく銃で対抗しようとする感じも新鮮で笑えました。
終盤は怖さを醸し出すことよりも驚かせることに偏っていってしまい、ラストカットはその最たるもので、少しもったいなかったです。

11位 ファントム・スレッド 3.0

名優ダニエル・デイ=ルイスの引退作となったポール・トーマス・アンダーソンによるラブストーリー。
気難しく完璧主義の仕立て屋の男と、彼にとり完璧なスタイルを持つ女が出会い、価値観の食い違う2人が不思議な恋愛関係を築いていく物語です。
良かれと思ってバターで炒めたアスパラガス、スプーンをかじるような食べ方、そして毒キノコと食にまつわる巧みな描写が2人の食い違いを炙り出し、溝を深めていく見せ方が素晴らしかったです。
強い人が自分だけに見せる弱さに惹かれる感覚は分からなくないものの、その優越感と支配欲を愛と混同していく危うさは恐ろしく、さらにそれを相手も受け入れるという奇妙な愛なのですが、その様をこの上なく美しい画と音と美術で撮ってしまうPTAのセンスの良さを感じられました。

10位 ベイビー・ドライバー 3.0

MVのノリを持ち込んだ青春クライムムービーの佳作。
冒頭からフルスロットルのカーチェイスに始まり、音楽を使いこなすスタイリッシュな演出、主人公のキャラクターと境遇にヒロインとの印象的な出会いまでを詰め込み、作品としての自己紹介と物語のセッティングを20分で済ませてしまうテンポの良さが素晴らしかったです。
二人のオスカー俳優も脇で良い味を出しており、強盗団が皆それぞれにキレ者なことが中盤の緊張感を作り出していました。
カーチェイスなみならず、街中での追いかけっこも楽しく観られました。
しかし終盤は主人公の自分勝手な行動に共感できず、里親への仕打ちも、覚悟ができていたとは思えないヒロインへの態度も、先のストーリーのための強引な展開という印象でした。
さらに全てを丸く収めるかのような重ねて強引な結末も好みでなく、中盤までが良かっただけに残念でした。

9位 ジュリアン 3.0

ヴェネツィアで銀獅子賞、セザール賞では作品賞始め4部門制覇と高く評価されたドラマ。
離婚した両親の間に挟まれ、暴力的な父親から母親を守ろうとする少年を描く物語です。
社会問題を淡々と映し出す手法はダルデンヌやムンジウの系譜に連なるものでしたが、より汎用性のある作品作りをしている印象でした。
リアリティを求めて物語性を排除することなく、しっかりクライマックスを設けてくれるので見やすいですし、少年だけに寄り添い続けるのでなく、それぞれの心情も描かれるので感情移入もしやすいです。
ドキュメントタッチにしなかったことでメッセージはややマイルドですが、観客の心にしっかり重い物を残しながら90分楽しませるというバランス感覚が素晴らしかったと思います。

8位 ブリグズビー・ベア 3.5

25年間、教育番組を通してしか外の世界と繋がることなく育った主人公が、家族や友人と関係を築いていく過程をコミカルなタッチで描いたドラマ。
その境遇から社会への順応に時間がかかるのかと思いきや、意外にもあっさりと外の世界を受け入れ、交友関係を広げていきます。
主人公の葛藤が見えない展開はリアリティには欠けますが、基本的に善人しか登場しない爽やかな世界観を寓話的なファンタジーと捉えれば楽しかったです。
親からの直接的な愛情よりも周囲の人との繋がりと自己実現を優先し、それによって結果的に家族の中での自分の立ち位置を見つけていく感覚は今時で新鮮でした。
全体的に楽観的すぎる印象は否めませんし、終盤はやや湿っぽくなりすぎた感もあります。
しかし随所に散りばめられたユーモアのおかげであざとさは軽減され、変わり者が友情によって救われ、夢を叶える心温まる物語として素直に受け入れやすくなっているのが良かったです。

7位 ゲット・アウト 3.5

その巧妙に伏線が張り巡らされた内容が高く評価されただけでなく、ハリウッドでマイノリティだった黒人や女性の活躍が目覚ましくなり始めた時期の代表的な作品として知られる傑作スリラー。
人種問題を扱いながらも深刻で退屈なドラマとすることなく、ミステリアスな映画、スリリングな映画という娯楽作品としてのクオリティも高いところが素晴らしいです。
前半で感じる何とも言えない居心地の悪い空気が後半には敵意になっていくのかと思いきや、羨望の眼差しになる展開は驚きと同時に強烈な皮肉を感じました。
蔑まれて虐げられる差別は最早古臭く、コンプレックスによって文字通り複雑化した感情が差別意識を醸成していることがよく分かる現代的なメッセージとなっていました。
終盤の展開は爽快感がある一方で、結末は甘めの物足りないもので残念でした。

6位 アナと世界の終わり 3.5

ゾンビものと学園青春ものにミュージカルをかけ合わせ、さらにクリスマス要素も詰め込んだコメディ。
ゾンビ映画としてのグロさ、青春映画としての甘酸っぱさとほろ苦さ、ミュージカルとしての楽曲の良さ、それらを余すことなく確保しながらコメディとして笑えるシーンも少なからずあるバランス感覚とセンスが良かったです。
特に楽曲の魅力が際立っていて、ミュージカルシーンだけでも繰り返し楽しめます。
後半に進むにつれてストーリーはトーンダウンしていき、微妙なクライマックスを経て無難な結末へと至るのですが、キャラクターの魅力のおかげで飽きずに観られました。

5位 シェイプ・オブ・ウォーター 3.5

特撮やクリーチャーへの偏愛で知られ、マニアックな作家というイメージの強かったギレルモ・デル・トロが持ち味を活かしながらもメッセージの強いラブストーリーを描いてオーバーグラウンドでも高い評価を得たオスカー受賞作。
声を持たない女性と捕らえられ虐待される半魚人が恋に落ちるという突飛な設定ですが、そこに彼らを手助けする同性愛者や黒人といった当時迫害を受けた側の人々を配することでデル・トロの優しい眼差しが強調されています。
一方で彼らを責め立てる役柄をキャデラックやテレビを囲んだ一家団らんといったこの時代の典型的な理想の白人中流家庭像として描写することで、持たざる者との対比が明確になっています。
無重力空間で漂うような水中でのラブシーンとラストシーンは、そこが彼らにとって抑圧から解放されるオアシスとして象徴されていて美しかったです。
無形物である水の形というタイトルは、そんなオアシスは現実世界には存在しないという哀しさも感じさせました。

4位 隣の影 3.5

アイスランドの平穏な町で起きる隣人トラブルの顛末をシニカルに描くブラックコメディ。
隣家の木が陽を遮ったという些細なきっかけで、収拾のつかない事態に発展していく様にはゾッとする恐ろしさと同時に、憎しみに囚われた人間の愚かしさを嘲笑うユーモアがあっておもしろかったです。
老夫婦とその隣人夫婦、息子夫婦とその娘の7人の主要人物がおり、それぞれの視点が割と均等に描写されるので、どの視点に立つかで物語の印象が変わるのもユニークでした。
特に幼い娘やこれから生まれてくる子どもの気持ちを察すると、親の行いが子どもに帰る今作のストーリーの哀しさややるせなさが際立って感じられました。
皮肉な結末の切れ味も素晴らしく、自らを正当化していた彼女が受け入れ難い現実を前にその後どんな行動を取るのか想像すると恐ろしかったです。

3位 ハッピーエンド 3.5

少女が冒頭で語っているように、みんな自分の話ばかりで自分のことを気にかけてくれない、そんな利己主義とコミュニケーションの断絶がテーマになっているように感じました。
父親は一見良い親らしく見えますが、その愛情の軽さを見抜かれています。少女が周囲の人に何度も年齢を聞かれるのは、彼女が表面的なコミュニケーションしかできていないことを強調しています。ボケかけているとはいえ、おじいちゃんからお前誰だっけと言われるのは、少女の心にはこたえたはずです。
また、二回出てくるパーティのシーンでは、周りのペチャクチャのボリュームが大きく、雑音感が際立っています。パーティでの会話など、他愛のない自己主張のやり合いでしかないと言っているかのようです。
親から尊重されず、自己肯定感を持てない少女は自分の命も他者の命も大切に思えなかったのだろうと思います。友人を殺しかけ、母親を殺した少女は、退屈な叔母の婚約パーティから抜け出して、もはや生きている意味を感じていないおじいちゃんがこの世を去る手伝いをします。記念すべき旅立ちをスマホで撮影する少女。このまま誰にも気づかれずに沈んでいれば、おじいちゃんと少女双方にとってのハッピーエンドだったでしょう。しかし、父を助けようとフレームインしてきた叔母は少女の方を一瞬にらみます。ハッピーエンドが崩壊する瞬間に映画が終わるという素晴らしいバッドエンドです。

2位 マザー! 4.0

不条理劇のような前半からノンストップなカオスに突入していく後半まで、全編通して不快感と嫌悪感を容赦なく抱かせる展開が続き、観客の激しい拒絶反応を引き起こした鬼才アロノフスキーの問題作です。
良くも悪くも寛容で慈悲深く信仰の対象となる神のような夫と、我が物顔の身勝手な振る舞いがエスカレートして収拾がつかなくなる来客者たちによって、再三の訴えも虚しく蹂躙されていく妻とその住処。
母なる大地の地球目線で天地創造から聖書の物語をなぞり、人類が数千年間繰り返してきた罪深い行いに怒りを爆発させて愚かな人類を一掃するまでを描くというかなりひねくれた方法で環境問題提起をする作品でした。
聖書への理解が一般教養レベルでもメタファーが伝わるような表現にしたのは前作での反省が活かされていると思いますし、そのメッセージ性を無視して観ても、不愉快であることの突き詰め方は不条理劇として素晴らしかったです。

1位 スリー・ビルボード 4.0

娘を殺された母親が事件を解決しない警察に業を煮やし、それを糾弾する路上看板を設置したことからそれぞれの感情が交錯し始めるミステリーの皮を被った傑作ヒューマンドラマ。
予想外な展開が続くストーリーの中で、真犯人の特定や事件の解決を期待すると肩透かしですが、人間の複雑性と不確かさがテーマになっている印象で、見事に描写される繊細な感情の動きは見応えがありました。
主人公は娘を失った悲しみを怒りに変えて内外に放ち続け、状況には共感も同情もできるものの、行動にはまるで共感できない人物として描かれます。
それは今作に登場する人物全てに共通するスタンスで、善人と悪人の境界が非常に曖昧です。
人々は怒りや憎しみと赦しや献身の狭間で常に揺れ動き、その時々でどちらに転ぶか、その意思決定は何とも不確かで、その軸のなさがとてもリアルで説得力がありました。


いかがでしたでしょうか。
2017年は人間の暗部を炙り出すような傑作が多く生まれた豊作の年でした。
次回の記事では、2009年を取り上げます。

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