映画公開年別マイベスト 1982年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1982年で、14本の作品が3.0点以上でした。

14位 クリープショー 3.0

ロメロが監督、スティーブン・キングが脚本を務めた5話のオムニバスホラー。
タイトル通り、恐怖よりも気味の悪さを楽しめました。
近年制作されたテレビシリーズもスタイルは踏襲しているのですが、80年代らしい画質粗めで絶妙にチープな映像は再現できていませんでした。
一話目は低調な出足で心配になりますが、バカバカしいオチは笑えました。
二話目は地味で存在感薄めですが、「メン・イン・ブラック」の序盤のシーンに影響を与えていそうな気がしました。
三話目は終盤までらしくないしっかりしたサスペンスが展開されますが、良くも悪くも台無しにする結末が良かったです。
四話目は安っぽい怪物をアイテムとして使いながら、フリの効いたブラックな展開が見どころでした。
五話目は皮肉なストーリーもさることながら、強烈なビジュアルが凄まじく、それまでの四話を忘れさせるインパクトがありました。

13位 ヴィデオドローム 3.0

過激な映像に魅了された男がのめり込んでいく日常の陰に潜んだ怪奇な世界を描いた怪作ホラー。
前半は巨大な陰謀が潜んでいそうな世界に主人公が少しずつ迫っていくミステリーと、恋人が主人公以上のスピードでサディスティックな世界に魅了され、そそくさと発信源のピッツバーグへと発ってしまう不可思議なスリルが積み上げられていきます。
しかしテレビが息づき始めたのを境に、ストーリー性は半ば放棄され、主人公の倒錯した願望を具現化していくようなグロテスクな幻覚のオンパレードとなっていきます。
そしてここからは主人公のみならず、クローネンバーグ自身の人体損壊願望を具現化するための展開にも思えました。
ニューウェーブ界のセックスシンボルだったブロンディのデボラ・ハリーがその妖しい魅力を存分に放っていて魅力的でした。

12位 13日の金曜日PART3 3.0

トレードマークのホッケーマスクを装着し、地味ながらもカジュアルな服装にその大柄な身体を包み、ナタを片手に悠然と歩きながら、人間離れした怪力で若者たちを血祭りにあげる殺人鬼ジェイソンとしてのビジュアルとキャラクターが完成した記念碑的な3作目。
前半に噛ませ犬的な不良たちを登場させることで、作品のテンションを後半の殺戮シーンまで維持させることに成功しています。
逆立ち中から振り返りざままで殺し方のシチュエーションは豊富でしたが、突き刺すパターンが多く、バリエーションにはもう一声というところでした。
お約束を守りながらもあやふやにしなかった結末には好感が持てました。

11位 シャドー 3.0

ジャーロ感強めなダリオ・アルジェントのスリラー。
プロモーションでローマを訪れた作家の周囲で起こる連続殺人事件を描く物語です。
ミステリーとして犯人探しをしながら観るとその強引さにガックリしますが、あくまでもアルジェント作品であることを念頭に、独特な音楽が乗るサスペンスシーンと殺しの場面のユニークさを楽しむにはうってつけでした。
ゴア描写はもっと攻めても良かったと思いますが、登場人物全員殺す勢いの量的な満足感は高かったです。

10位 コーラス 3.0

イランの名匠アッバス・キアロスタミによる短編。
耳が悪く補聴器を付けた老人の暮らしを描く物語です。
街中のノイズに対して衰えた聴力をむしろ積極的に活用する老人の姿はユーモラスで、監督得意の子どもたちを登場させるオチも秀逸でした。
疎ましいものを遮断することは、好ましいものを見逃すことにもなりかねないという外界との繋がり方に対する寓話としても面白かったです。
画と音の組み合わせである映像表現だからこそできる演出も素晴らしかったと思います。

9位 エクストロ 3.0

地球外生命体による密かな侵略を描いたイギリス製B級カルトホラー。
3年前に空から降り注いだ光に包まれ行方をくらませた父親が突如帰宅し、言いようのない違和感を抱く妻子や新たな恋人をよそに侵略が始まっていく物語です。
設定はブレブレですしストーリーも破綻気味なのですが、整合性を度外視してでも思いついた描写を全部詰め込んだような発想の豊かさとチープゆえに気色悪さが増したビジュアルが素晴らしかったです。
殺しのシーンの描写は控えめな一方で、寄生される時の隆起した皮膚が絶妙に気持ち悪かったり、少年の思考が具現化する不気味なアイディアの突飛さが際立っていました。
無理にクライマックスを作って解決させず、エピソード1的なまとめ方にしたのも正解だった気がします。
華のないキャストの中でマリアム・ダボだけが異質の輝きを放っているのも印象的でした。

8位 遊星からの物体X 3.5

スラッシャーホラーの金字塔「ハロウィン」を生み出したカーペンターのもう一つの代表作。
ストーリー展開は「エイリアン」を思い起こさせますが、出会ったらほぼ太刀打ち不可能で絶望的な恐怖を与えるあちらに対し、こちらは力関係が割と対等なことでやけに生々しい恐怖であった印象です。
南極の孤立したシチュエーションによる閉塞感を作り出す状況設定、誰が敵か味方か分からないスリルを盛り上げる演出、そしてインパクト抜群のクリーチャー、それらサスペンスフルな要素とショッキングな要素を絶妙に混ぜ合わせたことが、今作を単なるSFホラーの枠にとどまらない傑作へと押し上げている気がします。
特に有名な血液テストのシーンの緩急を巧みにつけた演出が生み出す緊迫感は、疑心暗鬼に陥った人間の心理的脆さを感じられて素晴らしかったです。

7位 ブレードランナー3.5

アンドロイドのレプリカントを追う捜査官ブレードランナーの姿を描いた近未来SF映画の金字塔。
東京と香港を混ぜたような暗くて煩雑な未来像は今観るとレトロにさえ感じます。
複数バージョンが存在し、数々の深読みした考察を呼んだことでも知られていますが、その原因となった行間はハプニング的なものだと思っているので、その考察に意味があるとは思えませんが、今作が素晴らしいのはそんな無意味な思索を巡らせたくなるような魅力的な世界観を構築したことだと思います。
奇跡的な偶然でストーリーの中に散りばめられた謎を追いかけなくとも、命を創り出したことの責任と創り出された命の悲哀がシンプルに胸を打ちました。

6位 ファニーとアレクサンデル 3.5

世界的巨匠ベルイマンの集大成の名に恥じない圧倒的な5時間の一大叙事詩。
裕福な家庭で育つ兄妹の目を通して描く半自伝的な物語です。
私生活やパーソナリティを作品に色濃く投影してきたベルイマンだけに、今作もその視点で観ることを避けるのは難しく、厳格な牧師の父から厳しく育てられたという少年時代とは似ても似つかない大らかで多幸感溢れる第一部は、叶わなかった願望のようで切なかったです。
第二部での哀しむ母の絶叫は恐ろしい程で、らしい演出の真骨頂を感じられました。
第三部から四部で伝え聞く少年時代にストーリーが寄っていくと同時に、物語としての面白みが増していきます。
その分クライマックスから結末に向けてはもっと壮絶な展開を期待してしまい、やや肩透かしではありましたが、冒頭に示される「悩むより楽しめ」の一文はベルイマンに言われると単なる楽観主義には聞こえず、悩み抜いた末の結論として胸に響きました。

5位 センチメンタル・アドベンチャー 3.5

出演作の音楽に携わることもあったイーストウッドが初めて音楽を主題に扱ったロードムービー。
病に冒されながらもナッシュビルに向けて旅をする歌手をイーストウッドが演じ、同行する甥っ子を実子のカイルが演じています。
旅の途中でハプニングが起きたり、仲間が増えたり減ったりとイベントはいくつも用意されているのですが、それらはドラマチックとはほど遠く、あまりにもゆったりとした牧歌的な時間が流れています。
しかしそれは退屈と言うより何とも心地良いテンポで、成功を夢見る人々への讃歌としてカントリーが優しく響いています。
夢見る若者たちの先頭を走る主人公は名もなき者として生きるよりも命がけで何者かになろうとします。
甥っ子を酒や女といった大人の世界へと導きながら、つまらない大人になるよりも、永遠に思春期のように夢を見ることを肯定する生き様が良かったです。
成功をつかむこと以上に、成功を夢見続けること自体に価値を見出すような結末も味わい深かったです。

4位 48時間 3.5

ワンマンで家庭を顧みない刑事と口の達者な囚人という変則的なバディものでありながら、以後のポリスアクションにおけるバディの定型を作った作品。
主人公は70年代なら一匹狼だったであろうキャラクターで、2人が反発しながらも次第に互いを認めていく過程がうまく描かれています。
終盤に2人そろってうなだれながら説教されるシーンは素晴らしかったです。
本作の魅力はこれがデビューながら抜群の存在感を放つエディ・マーフィーなしには語れず、その後80年代のトップスターへと登りつめることになるのもうなずけます。
作品がコメディ寄りでないからこそ、彼のユーモアが光っていると感じました。

3位 偶然 3.5

もしもあの時、あの選択が違っていたら、、という運命の分かれ道を3パターン順に描いたユニークな作品。
電車に乗れたかどうかで主人公の運命は違う方向へと転がっていきます。
その主たる違いは政治的立場であることが当時のポーランドの社会情勢を表しており、それゆえに当時上映禁止処分を受けたそうです。
しかし、その政治的立場は電車に乗れたかどうか、そしてその時出会った人によって変わってしまう、その程度のものであると感じさせるストーリーです。
驚きのラストを観ても、結局どのパターン彼にとっての正解だったのか、分からないところがキェシロフスキらしい佳作です。

2位 ランボー 4.0

ロッキーと並ぶスタローンの代名詞的な名キャラクターとなったジョン・ランボーを生み出したシリーズ一作目。
スタローンの生まれ持ったタレ目の哀しげな顔が役柄にマッチしています。
ベトナム帰還兵の悲哀を肉体的には主人公の肉体に刻まれた傷跡で、心理的にはPTSDによるフラッシュバックで、そして街の人々から疎外され、徹底的に理不尽な敵意を向けられるプロットでは社会的な孤立までもを見事に表現した傑作です。
そのシンプルなプロットゆえに、ベトナムのことを置いておいたとしても、部外者や理解の及ばない者を理由なく敵視し、躊躇なく暴力をふるう人間の愚かさと醜さを描いた作品として普遍的なメッセージを持っています。
中盤に大佐を投入するタイミングも絶妙で、展開にアクセントが加わって飽きさせません。
おバカアクション映画と化していった続編のイメージによって、力ずくで悪をねじ伏せる勧善懲悪の物語と誤解されて見過ごされるのがあまりにも惜しい作品です。

1位 対話の可能性 4.5

異質なものには攻撃ならぬ口撃を加え、破壊する。噛み砕いていけば、みんな同質なのに。そんな人と人との間に発生しがちなコミュニケーションの不和を感じる「永遠の対話」。
いわゆる愛の結晶が、その愛を破滅させる。男女の間に発生しがちなシチュエーションを思わせる「情熱的な対話」。
一つボタンを掛け違えたら、修復は難しく、それはお互いを疲弊させる。誰にでも起こり得るすれ違いをコミカルに描く「不毛な対話」。
一つのテーマを3つの異なる角度で切り取ることで、短い時間の中により重層的なメッセージを込めることに成功しています。


いかがでしたでしょうか。
1982年はホラー映画の秀作が多く誕生した中で、強烈なメッセージ性を持った作品が上位を占めた年でした。
次回の記事では、1998年を取り上げます。

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