映画公開年別マイベスト 1996年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1996年で、14本の作品が3.0点以上でした。

14位 ザ・エージェント 3.0

当時1億ドル越えのヒットを連発してノリに乗っていたトム・クルーズを二度目のオスカーノミネートに導き、監督のキャメロン・クロウにとってもブレイクスルーとなったスポーツドラマのヒット作。
有名な”Show me the money”のセリフがエージェントという仕事と今作のメイン二人の男の関係性を表しています。
優秀でハンサムだがやや独善的なところがあって、欲望に忠実な男という主人公のキャラクターはトム・クルーズのハマり役でした。
原題は主人公の名前であることからも、見どころはエージェントとクライアントという関係に友人としての信頼関係が育まれていく過程にあり、そこに双方のパートナーや家族が絡む爽やかな友情物語でした。
しかし終盤はクライアントよりもパートナーとの関係に比重が置かれていったのは、娯楽作品としては分かりやすいハッピーエンディングであっても、せっかくのユニークな設定を活かしきれていない気がしました。

13位 インデペンデンス・デイ 3.0

90年代を代表するメガヒット作であり、90年代らしさを体現するSF大作です。
世紀末の漠然とした不安や終末観を表すように、宇宙や自然災害といった人知を超えた力の脅威を描いたパニック映画が量産された90年代において、本作はその代表格と言えます。
パニック映画の伝統を引き継ぐように群像劇的なキャラクター配置をして、アクションから笑い、家族愛、男のプライドまで、盛りだくさんの要素をこってりした味付けで詰め込んでいます。
何十万人死んでいようがメインキャストさえ無事ならOKというスタンスも、ハリウッドの娯楽大作らしい割り切り方でした。

12位 エスケープ・フロム・L.A. 3.0

B級映画界の帝王ジョン・カーペンター自身による傑作SFアクションの続編。
プロットはほぼ同じで、舞台をニューヨークからLAに変えたのを受け数々のマイナーチェンジを施しているのですが、最早その小ネタを笑って楽しむためのコメディになっていました。
特に前作を観ていれば檻の中で殺し合いが始まるとワクワクしているのをまんまとスカしたり、ピーター・フォンダのサーフィン講座を挟んだりと中盤のフザケ方は最高でした。
予算規模が何倍にも上がったのに加え、映像技術の進歩もありスケールは大きくなっているのですが、結局B級のノリを離れないカーペンターのブレなさが良かったです。
ただセルフリメイクと言うよりはセルフパロディに終始しているので、作品としてパワーアップしたとは思えなかったです。

11位 ミッション:インポッシブル 3.0

変装、潜入、裏切り、秘密、組織、美女、スリル、タイムリミット、危機一髪、スパイものに求められる要素を漏れなく詰め込んだ人気シリーズの一作目。
スパイものとしてのお約束をきっちり守り、どこかクラシカルな雰囲気を残しながらもオリジナルをうまくアップデートしています。
種明かしと人物の相関関係がやや分かりづらいのは、今作から続くストーリー上のお約束とも言えます。
後にアクロバティックショーと化していく本シリーズですが、水槽爆破に天井からの宙吊り、列車の上での格闘と後の作品に比べたら質素に見えるアクションも十分に楽しめるもので、世の目を忍ぶスパイとしてはむしろ説得力がある気がしました。

10位 スクリーム 3.0

浮かれた学生たちをいろんな意味でターゲットにしたホラーは、80年代のスラッシャー映画の流行以降数多く作られてきましたが、その中心人物であったウェス・クレイヴン自身が自覚的にパロディしながら、再びホラー映画の潮流を作ることに成功した作品。
80年代に生まれた殺人鬼が作品を経るごとにモンスター化していく中で、今作の殺人鬼が見せた怖いのかおもしろいのか分からない人間的な動きはとても新鮮でした。
スプラッター描写を控えめにして、青春ものの雰囲気とミステリアスな要素を強めたことで、ティーンにとってのポップコーンムービーとして汎用性の高いホラーとなっています。
ただ、種明かしの強引さは笑ってしまうほどで、消化不良な結末でした。

9位 フロム・ダスク・ティル・ドーン 3.0

ロードムービー風のクライムアクションかと思わせる前半から一転、後半はB級ホラーアクションへと様変わりします。
ヴァンパイアとゾンビをかけ合わせたようなモンスターたちの戦闘能力が低く、そのあっさりとしたやられっぷりには爽快感すら覚えます。殺しまくり、殺されまくる。それを作り手が楽しんでやっているのが伝わってきます。
魅力的なキャラクターとテンポの良さで一気に押し切っているので、ご都合主義でしかないストーリーも気になりません。

8位 ゲット・オン・ザ・バス 3.5

スパイク・リーらしいメッセージ性と熱気を一台のバスに詰め込んだ群像劇。
あらゆる人が無作為に乗り合わせるバスではなく、行き先も目的も同じ人々が集まったバスとした設定が良く、アフリカンアメリカンというアイデンティティの元に共に祈り、歌い、共同体を形成しているように見えた乗客たちの間に旅の過程での会話の中で徐々に微妙な価値観や思想の違いが浮かび上がっていきます。
ゲイのカップル、手錠で繋がれた親子、警官と元ギャングといったメンバー構成も巧みで、人種差別に対してのみならず、ジェンダーや職業など人間社会が内包するあらゆる隔たりに対する問題提起が成されています。
テーマが幅広な分、一つ一つの掘り下げは浅めな印象ですが、それによってメッセージ性と娯楽性のバランスはむしろ良くなっている気がしました。

7位 イゴールの約束 3.5

ベルギーが誇る名匠ダルデンヌ兄弟が世界的にその名を知られるきっかけとなった人間ドラマの秀作。
移民を違法就労させるビジネスに父親と共に精を出す少年が、事故で命を落とした男と死に際に交わした約束を守ろうと奮闘する様を生々しいタッチで描いています。
一つの約束をきっかけに、父親に支配されてきた少年に自我が芽生え、葛藤の末に罪悪感という倫理観を獲得するまでの心の変化を淡々とした描写の中にくっきりと浮かび上がる手腕が素晴らしかったです。
手持ちカメラによる撮影と音楽などの装飾を排した演出スタイルは既に確立されており、貧しくも懸命に生きる人々というテーマもブレていません。
ドキュメンタリータッチと形容されることも多い作風ですが、特筆すべきはその絶妙なバランス感覚で、ドキュメントと言うには物陰から見守るような眼差しが温かい一方、感傷的な同情に陥ることなく現実を冷静に見つめるスタンスが秀逸でした。

6位 トレインスポッティング 3.5

ドラッグ中毒の若者たちの日常を描いた90年代を代表する青春映画。
青春といっても爽やかさや甘酸っぱさとは無縁で、薬に盗みにケンカと自堕落な暮らしが映し出されるストーリーはなかなかにヘビーです。
しかし、ナレーターである主人公が場面を飛び飛びにピックアップしてつなげたようなテンポの良さと、スタイリッシュな映像にマッチした音楽の力でやや強引ながらもポップに見せています。
物語のイマイチさを補って余りあるトリップ時の映像表現だけでも観る価値ありです。

5位 浮き雲 4.0

そろって失業の憂き目にあった夫婦が生活を立て直そうと悪戦苦闘する物語。
しっかり者だけど運のない妻と優しいけれど頼りない夫の組み合わせが愛らしく、淡々としながらも妙に息のあったやり取りから、2人の結びつきが深いことが感じられました。
不運続きと世の中の世知辛い仕打ちで八方塞がりになっていく中でも、どこかのんびりと前を向く姿は後の「過去のない男」にもつながるもので、明るい結末を予感させます。
そしてその結末の明るさ加減も絶妙で、作品の世界観を壊すことなく、最適な落としどころへと至っています。

4位 バウンド 4.0

ミニマルな要素ながら見事な展開でハラハラが止むことのないクライムサスペンスの秀作。
物語の9割以上を隣り合った2つの部屋で済ませており、それでも退屈しないどころか、隣り合っているからこそのスリルを生み出した脚本が素晴らしいです。
映像的にもオープニングから凝りに凝っており、室内劇ゆえの変わりばえしない背景でも、視覚的に飽きることはありませんでした。
キャラクターの背景や感情を掘り下げることはあまりしていないので、感情移入はしづらいのですが、下手に深みを出そうとせずに、サスペンス的状況をひたすら積み重ねることに徹した潔さとサービス精神は称賛に値すると思います。

3位 奇跡の海 4.0

寝たきりとなった夫への献身的で盲目的な愛の為に体を売る妻を描いた悲劇のドラマ。
序盤から2人の愛情表現は肉体的なつながりによって示されるので、危うい予感は漂っているのですが、夫の事故を境にある種約束された悲劇が始まります。
彼女は依存的な人物ではあるものの、男たちに身を委ねることに喜びを感じておらず、あくまでも夫への愛の為に、そして神への信仰の基にその身を落としていきます。
狂信的に思える妻の言動は、医学的には精神的な異常であると捉えられ、教会からは追放を受けます。
つまり社会から異端者として見なされているのですが、医者がその見解を改め、教会が受け入れなくとも神が祝福するラストには哀しい爽快感があります。
ドキュメンタリータッチで描かれる悲劇において、神の存在を示すのは唐突なファンタジーにも感じるのですが、その分強烈なインパクトを残しています。

2位 ファーゴ 4.5

シニカルなクライムコメディを得意とするコーエン兄弟の魅力が詰まった代表作。
ボタン一つのかけ違いで、歯車がどんどん狂い、悲劇が連鎖していく過程をシリアスとコミカルが同居したような独特のタッチで描いています。
雪の白と血の赤が印象深いビジュアルは鮮烈です。
本筋の合間に挿入される警官夫婦の自宅での何気ないやり取りが秀逸で、情熱的な場面などなくても、パートナーとしてお互いを深く理解していることが伝わってきます。特にラストは相手への思いやりがじんわりと染みる名シーンだと思います。
優雅でも豪勢でもない、特別でも刺激的でもない。つつましく、さりげなく生きる人生でも、見方ひとつで喜びはいくらでも見つけられる。そんなことを教えてくれる傑作です。

1位 悦楽共犯者 4.5

愛すべき変態性欲の世界。
快楽の源は人それぞれで、それは誰にも知られたくないものです。そして隠すことによって増す背徳感もまた、快感なのかもしれません。
男子中学生のように真剣なまなざしと熱い情熱、そして謎の行動力が最高です。
隣のあの人も、一枚皮をはげば、きっとこうかもしれない。そしてそれはきっと、ノーマルだと思っている自分自身も。登場人物それぞれが少しずつ関わり合い、時にインスピレーションを与え合うシナリオが、変態たちを身近に感じさせます。


いかがでしたでしょうか。
1996年はハリウッド大作が豊作の中でヨーロッパの作家性が強い監督たちが傑作を放った年でした。
次回の記事では、1985年を取り上げます。

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